「今時の軟弱な若者を、徴兵制で叩き直せ!」とおっしゃる人生の先輩方がたまにいらっしゃいます。しかしこれは現代の日本社会において、本当に適切な答えでしょうか。
1.本物の武器を扱う技術の民間人への流出と、犯罪への悪用
「入隊して兵士としての訓練を受ける」という事は、何を意味しているのでしょうか。ただ「上官にスパルタ式にしごかれながら体を鍛える」では済みません。「本物の銃を使った射撃の方法」や、「銃のメンテナンスの仕方」をはじめ、言葉は悪いですが「人を殺す訓練」も含まれることになります。
本来これは、武装勢力から民間人を守るなど正しい方向で用いられるべき、そして節度を持って使われるべき技術です。現在の自衛隊員も、現場では余程の事がなければ実弾を撃てない程、厳しい決まりがあります。しかし、「徴兵制導入」とは、この「武器を扱う技術」を職業軍人だけが知るにとどめるのではなく、「民間人に流出させる」事に他なりません。
もちろん、徴兵制が導入されたところで、大半の兵役経験者はその後平和な生活を送るでしょう。しかし、若い犯罪者にとって徴兵制とは「外国に行ったり銃を購入したりしなくても、政府が税金を出して自分たちの殺人技術を磨いてくれる、ありがたい制度」になってしまうかもしれないのです。
人生の先輩方からは「暴力的なゲームの好きな若者が多いが、危険だ。現実と虚構を混同して犯罪に至るのでは」などという紋切り型をよく耳にしますが、徴兵制復活となれば虚構の世界では済みません。現実なのです。ゲームコントローラではない、本物の銃と実弾を手にするのです。
今でこそ警察が犯罪者をどんどん逮捕していますが、軍隊で腕を磨いた犯罪者は、今よりもっとうまくやりおおせるでしょう。そんな犯罪者を鎮圧しづらくなった警察に代わり、我々民間人が銃で武装して自分や家族を守らなければならない、そんな時代が「徴兵制復活」の先に待っているとしたら、そんなのまっぴらごめんです。
加えて、実際の武器の民間への流出リスクも、徴兵制導入前より高くなる可能性がありますし、犯罪者もきっとそれを狙うでしょう。
2.たった数年では軍隊のお荷物
そもそも、いざとなったら兵士として実戦に回せる人材を、たった二年や三年で訓練できるかというと、少々疑問です。人生の先輩方の言う「軟弱な今時の若者」を、にわか仕立ての兵士にしたところで、はっきり言って、実戦では足を引っ張るみんなのお荷物になる事間違いないでしょう。
それも、昔のように歩兵をたくさん投入するような時代ならともかく、最近の軍隊は難しいハイテク兵器を駆使する時代ですから、たった二年、三年ではやっぱり訓練不足です。
3.若い一時期を一般社会から離れて暮らすことによる影響
「それなら、入隊期間を五年とか十年とかに延ばせば良い」と言われそうですが、そうなると民間の会社等での若い働き手が減ってしまいます。いやたった二年、三年であっても結構な影響です。税収だって減ります。
それに、軍隊では女性とは自由に会えないので、ただでさえ進んでいる非婚化・少子化が、今よりもっと加速する可能性もあります。
4.軍事機密の流出リスク
職業軍人ではなく民間人を徴兵して軍隊に入れる事には、他にもリスクがあります。「軍事機密の流出」です。
今でさえ自衛隊の機密情報がたまに流出してしまうくらいですから、日本中の民間人を徴兵する時代になったら、もっと大変な事態になるだろう事は想像に難くありません。「極左テロリストや北朝鮮スパイの協力者が入隊したらどうなるか」を想像してみましょう。
5.適性が合わない人をつぶしてしまうリスク
兵士に向いている人間もいれば、向いていない人間もいます。適性が合わない人をスパルタ式に無理に叩き直そうとしたところで、その人をつぶしてしまうだけです。
「スパルタ式に叩き直せば、どんな若者でもたくましい男になる」なんて、ファンタジーです。そんな漫画みたいなことを信じてないで、現実に帰りなさい。
6.若者の「自主的に判断して行動する」能力を摘み取るリスク
徴兵されて軍隊に行っても、「上の命令が絶対なので、とにかく黙って従う」能力(言葉は悪いが、ある意味、マインドコントロールに近いかもしれない)は徹底して鍛えられますが、「自主的に判断して行動する」能力はあまり育ちません。むしろ摘み取られるかもしれません。各自の勝手な判断が、戦場では命取りになる危険があるからです。
しかし、戦場と一般社会は異なります。一般社会ではむしろ自主性がない方が命取りです。「最近の若者はマニュアル通りの事しかできない」「上司の指示がないと動けない」という文句を言う人は多いですが、徴兵制なんて、昔からまさに「マニュアル人間製造工場」の最たるものです。