こぐまのミーシャ

 恥ずかしながら、最近になるまで知らなかった。「みつばちマーヤ」が男の子ではなく女の子だということを。地方UHF局のアニメ再放送で、「みつばちマーヤの冒険」をやるというので見ていたら、「みなしごハッチ」と同じ男の子だとばっかり思ってたはずのマーヤが女言葉を喋っているのを聞いてビックリ。

 そして題名の「こぐまのミーシャ」だが、こちらは昔、男の子ではなく女の子だとばっかり思い込んでいた。最近は「ミーシャ」といえばMISIAという女性歌手を思い浮かべる人も多いだろうし、女性的な語感の名前だと思う人も多いだろう。

 「こぐまのミーシャ」が何であるかを覚えている人は少ない。1980年という年をよく知る世代でさえ、ほとんど忘れかけているかもしれないが、ここで復習してもらおう。これはモスクワ五輪のキャラクターであり、それに先だって日本でもアニメとして放映されたキャラクターである。残念なことに、日本はアメリカの動きに追随して、モスクワ五輪をボイコットしたため、アニメも途中で放送打切りになってしまったという幻の作品である。

 私はこのアニメを一度も見たことがないのだが、しかしこのキャラクターを一生忘れることはないだろう。私の母は何を血迷ったか、男の子にも少々ファンシーなグッズを買い与える様な人であった。まあ、さすがにキャンディ・キャンディとか花の子ルンルンとか魔法少女ララベルとかは買い与えられなかったのが不幸中の幸いだったが(当時のアニメを知らない人のために、今の時代にたとえるなら、明日のナージャとかセーラームーンとかおジャ魔女どれみは買い与えられないまでも、とっとこハム太郎なら買い与えられたかもしれない、といったところだろうか)。そして忘れもしない、私が小学校に入学した1981年も半ば頃、学校で使う箸に、事もあろうに「こぐまのミーシャ」のを買い与えられてしまったのだ(右の写真の色違いで、青色のものだった)。なぜ箸が学校で用意されてなかったかというと、当時、米飯給食が解禁になったばかりで、箸が準備されておらず、自前で持参することになっていたからである。

 当時、私は「こぐまのミーシャ」のアニメは見ていなかったし、ミーシャとは女の子っぽい名前なので、女の子の熊だと思っていた。キティちゃんやスヌーピーや、パティ&ジミーのパクりっぽいキャラクターのとかを息子に買い与えるような母親なら、女の子の熊のグッズを買い与えることくらい、十分やりかねないことだった。また何で女の子っぽいグッズなど買い与えて、学校で使わせるなんてことするのだろう、とずっと思っていた。

 それで、一年くらいの間、「何で自分だけこんな女の子の箸なんか使わなくてはいけないんだろう」と、自分一人恥ずかしさを勝手に感じながら我慢して使い続けていた。母に文句を言わなかったのは何故かって? 言う勇気がなかったという理由ではない。一言で言うなら、せっかく買ってくれたものを、自分のワガママで買い直させるなんて勿体なかったからだ。

 今考えると、あれは「こぐまのミーシャ」のアニメが打切りになってだいぶ時間が経った頃だから、あの箸は恐らく店の不良在庫をバーゲンセールで安く買ったのに違いないだろう。どうせ安物だから、勿体ないなどと罪悪感を感じる必要もあまりなかったかもしれない。それに、うちは別に、箸もなかなか買えないほどの貧乏だったわけではなかった。しかし、値段が安かろうが高かろうが、自分の為を思って、貴重なお金で買い与えてくれたものを粗末に扱うことなど、私のプライドが許さなかった。我慢してでも使い続けるのが感謝の気持ちを表すことだ。こんな大仰な言葉ではないにしても、私の心には、漠然とこのような気持ちがあった。

 その何年か後、ソ連の書記長がゴルバチョフさんになった。そして「ミーシャ」とはミハイルという男性名の愛称だと知り、やっと「何だ、堂々と使ってよかったのだ」と、とても安心したのだった。全く、当時恥ずかしがって箸の模様を一生懸命裏向きに隠しながら使っていた一年間の間抜けな苦労は何だったのだろう。

 そして、後に私が女の子っぽいキャラクターグッズを持つこととか、少女漫画・少女アニメを見ることに抵抗がなくなってきたことの一因は、もしかしたら、その時の試練?で鍛えられたことにもあるのではないかと思う。その話はともかく、後にモスクワ五輪ボイコットのことを知ってから、当時こぐまのミーシャをもっと可愛がっておけばよかったと、今ではしきりに後悔している。

参考リンク:☆こぐまのミーシャ☆Bear Cub Misha☆