今日は何の日

 金色夜叉(こんじきやしゃ)の日。

 と言っても「ハァ?」と言われるほど、最近は知名度が低くなってしまったが。ゼネレーションギャップと云うものか。かく言う私も最近まで「黄金バット月光仮面なんかの仲間の、夜に姿を現す正義の味方の怪物」だとばかり思っていたので、人の事は言えない。最近の若者なら、この題名を聞くと「犬夜叉の親戚みたいなヤツ」と思ってしまうのかもしれない。

 「金色夜叉」とは、金の亡者という意味で、尾崎紅葉が書いた小説の題名。物語の筋を簡単に説明すると、相思相愛の貫一とお宮。しかし、お宮はダイヤモンドに目がくらんで金持ちの男に心を奪われてしまう。貫一が夜の熱海の浜辺でお宮に告げるこの言葉は、あまりにも有名なセリフ。そして世を恨んだ貫一は見返してやろうとばかりに、高利貸しになって巨万の富を蓄える――


(あゝ)(みい)さん(かう)して二人(ふたり)一處(いつしよ)()るのも今夜限(こんやぎり)だ。お(まへ)(ぼく)介抱(かいはう)をしてくれるのも今夜限(こんやぎり)(ぼく)がお(まへ)(もの)()ふのも今夜限(こんやぎり)だよ。
一月(いちぐわつ)十七日(じふしちにち)(みい)さん、()(おぼ)えてお()き。
來年(らいねん)今月今夜(こんげつこんや)は、貫一(くわんいち)何處(どこ)(この)(つき)()るのだか!
再來年(さらいねん)今月今夜(こんげつこんや)…………十年後(じふねんのち)今月今夜(こんげつこんや)…………一生(いつしやう)(とほ)して(ぼく)今月今夜(こんげつこんや)(わす)れん、(わす)れるものか、()んでも(ぼく)(わす)れんよ!
()いか、(みい)さん、一月(いちぐわつ)十七日(じふしちにち)だ。來年(らいねん)今月今夜(こんげつこんや)になつたならば、(ぼく)(なみだ)(かなら)(つき)(くも)らして()せるから、(つき)が…………(つき)が…………(つき)が…………(くも)つたらば、(みい)さん、貫一(くわんいち)何處(どこ)かでお(まへ)(うら)んで、今夜(こんや)のやうに()いて()ると(おも)つてくれ。」

*「金色夜叉」は、青空文庫で読む事が出来ます。本で読みたければ、岩波文庫から出ています。