「怪しげな宗教にかかわってはダメ!」と注意される、そんな光景を時々目にします。その理由とは大抵、「そんなところに入ったら、だまされてお金を巻き上げられるぞ」というものです。確かに、原価の安い開運グッズに何百万円もの値段をふっかけて暴利をむさぼる一部の宗教のことが社会問題となりましたし、そんなイメージを持っている人も多いことと思います。
しかし、「お金に汚くない宗教なら安全」なのでしょうか? それに、「カルト宗教だけ気を付けていればとりあえず安心」でしょうか? いいえ、どちらも違います。
お金だけが問題ではない!
実は、カルト宗教では「お金」の問題は「氷山の一角」です。
「詐欺的な方法で人の心を巧妙に操ってグループに囲い込み、グループに入った人の人格を徹底的に作り替えて、特定の人やグループの言いなりにさせる」組織だからこそ、結果として「お金を巻き上げられる」わけです。
もし「金づかいの荒くない組織」だったとしても、代わりに「人づかいが荒くて、たくさんの時間を拘束されて、行動の自由も制限される」としたら、時は金なり、結局同じことです。
カルト組織が「反社会的」とみなされる理由には、こんなにたくさんのものが挙げられます。
- お金: まず真っ先に思い付くのがこれでしょう。悪質なビジネスや宗教などのために何十万、何百万円もつぎ込むことになるかもしれません。
- 時間: あまりお金のかからないグループだからといって安心はできません。「時間」や「労働力」という「見えないコスト」をかなり払っているかもしれません。
- 健康: 過労やストレスで健康を崩すことがあります。医者にかからず祈祷や怪しげな療法にこだわることで、今ある病気がもっとひどくなる事があります。
- 機会: 共同生活グループに入ったり、そうでなくとも活動に支障のないようにと、高等教育への進学や、正社員の職業に就く機会を奪われることもあります。
- 知識: グループの教えていることを学ぶのに最低限必要な勉強や知識は身に着きますが、組織に不利な情報を見ない、聞かないよう圧力をかけられたり、「論理的な物の考え方」を否定されて、グループに対する疑問を抱かないよう徹底的に教育されます。
- 自発的な判断能力: 「自分は自発的に判断しているし、誰からも押し付けられていない」つもりでも、実際にはグループの言いなりになる「マニュアル人間」「指示待ち人間」になってしまいます。また、「上の立場にある人にお願いしたり交渉する能力」も退化してしまいます。
- 友達、家族: グループでの活動に邪魔になるからと、友達付き合いをやめさせられる事があります。そこまでいかなくても、友達や家族の関係を利用してしつこく勧誘活動をしたり、グループでの活動を強制することで、仲がかなり悪くなってしまうことは珍しくありません。
- 持ち物の破棄: カルトの教えにそぐわない持ち物を捨てるよう圧力をかけられる事があります。親の形見だったり思い出深い品物であったとしても、「執着を捨て去る」ことが求められます。後にそのグループの誤りに気付いて、当時捨てた事を後悔しても、後の祭りです。
- 成長: 結局、このグループにかかわっていなければ何らかの分野で成長できていたはずの人が、「それよりも素晴らしいものがある」と思い込んでグループの活動にのめり込んだ結果、結局単なる「グループの思い通りに動くロボット」で一生を終えてしまいます。
- 責任回避: グループからの命令や指示が法的、社会的に問題のあるものだったとしても、「私たちは何も命令していない。個々のメンバーが勝手にやったことだ」といった、いわゆる「トカゲのしっぽ切り」はしばしば見られます。
- 足元を見ている: どんな屁理屈やどんな理不尽な要求でも、「従わないと何されるかわからない」という弱みから、とにかく指示に従うよう巧妙に仕向けられます。
- 自虐的な思考パターン: 「自分は他の人に助けてもらわないと、自分では何一つできないダメ人間なのだ」という自虐的な思考パターンに陥ることで、精神的にボロボロになり、時には鬱病を誘発することすら珍しくありません。
- 建前と本音: カルト組織は、一般の人やメディアには「私たちの組織は自由だし、何か強制しているわけではありません」と口先では言います。しかしその言葉を真に受けて安心すると危険です。実際には、言う事を聞くかどうかしっかり監視したり、「このアドバイスを受け入れないとグループから追放する」といった脅しで無理矢理従わせている事は少なくありません。
- 脱退の妨害: 「円満にグループ脱退」できない事も多いものです。脱退を妨害されたり、グループを脱退すると(たとえ家族でも)村八分にし、個人的付き合いも禁止、といった方法でいじめられます。
- 違法活動: すべてのカルト組織がそうではありませんが、一部にはテロ行為や殺人や拉致監禁や児童虐待などの犯罪を犯しているものもあります。そこまでいかなくとも、一般社会にとって迷惑な活動を行っていることがあります。
(拙著「どうして詐欺って気付かないの?」より引用)
宗教だけが問題ではない!
加えて言うなら、この種の社会問題が見られるのは、宗教の世界だけはありません。
まず、政治団体で同じような手口が使われていることがあり、「政治カルト」と呼ばれています。どことは言いませんが、国ぐるみで行っているところもあることは、ニュースでご存じでしょう。
「ねずみ講」「マルチ商法」といった、一攫千金(いっかくせんきん)を狙ったビジネスでもよく用いられており、「商業カルト」といいます。
同じような手口を使って健康食品や何かの治療法を押しつけるようなグループもあり、「そのグループの治療法にこだわるあまり、子供を病院に連れていかなったり、予防接種を受けさせない」親のことが、近頃社会問題になっています。
他にも、宗教には分類されませんが、「より良い人格に作り替える」ことを売り文句にした「自己啓発セミナー」など、様々な種類のものがあります。皆さんもお気を付けください。