少女アニメ視聴規制法(フィクション)

 ある日の夜、夢を見た。
 そこは、とある友人の家族の家だった。時間は朝。居間にはその友人と奥さん、そして幼稚園に通っている娘さん。ソファに座って、他愛ないおしゃべりに花が咲いていた。


 「マジカルはてな見るのー!」突然、ちっちゃな娘さんはテレビのリモコンをテーブルから取って叫んだ。
 どうやらこの子は、女の子に人気の「マジカルはてな」というアニメにチャンネルを変えたいようだ。実際に見たことはないが、名犬「しなもん」と一緒に、世の中の謎を秘密のバトンを使って解決する「はてなちゃん」という少女の物語、というあらすじだけは知っている。




図1 「マジカルはてな」 ※当局の指導により、子供向アニメの18歳未満の女主人公である「はてなちゃん」の画像は、成人男性も閲覧する可能性のあるウェブサイトには掲載できません。代わりに男性の登場人物である「なおやおにいちゃん」の画像を掲載します。*1



 「だめでしょ、わがまま言っちゃ」。母親は娘からリモコンをひったくると、娘の手を引いて隣のキッチンに移動し、ひそひそ話を始めた。でも、ひそひそ話のつもりが、話している内容がだだ漏れだ。
 「おじちゃんはマジカルはてな見られないから、後にしましょうね」
 「やだやだ、今見たいのー!」
 「いい子にして、後で見ましょうね。ちゃんとビデオに録ってあるから大丈夫」
 「パパだって見てるのにー! おじちゃんも一緒に見るのー!」
 「おじちゃんね、まだ結婚してない男の人でしょう。女の子のアニメ見たらおまわりさんにタイホされちゃうの。そうしたらおじちゃんともバイバイで会えなくなっちゃうのよ。そんなの嫌でしょ?」
 その子は突然、大声で泣き出してしまった。


 「ごめんな、迷惑かけちまって」これまで黙っていた友人は、私の方を向いて口を開いた。
 「悪いからもう帰ろうか」ふと、自分はここにいてはいけないような気がしてきた。
 「いや、いいんだ」友人は帰ろうとする私を引き留めると、話を続けた。「しかし、こんな法律できたけど、全然効果ないな。オタクみたいな連中は相変わらずアングラで見てるって言うし、子供を狙った犯罪を減らすためったって、一向に減らないしな」


 そう、いつの間にこの法律は出来たのだった。通称「少女アニメ視聴規制法」、正式名称はすごく長くてわからない。
 とある女性国会議員の「娘がいるのでもないのに、いい年して少女アニメ見るような男性は、不快です! そういうDVDをコレクションするのは、女性の下着をコレクションしてニヤニヤするのに等しい行為です!」という発言がきっかけとなって、あれよあれよと雪崩を打ったように決まってしまったのがこの法律だった。
 実際、政府の行った世論調査でも、男性が少女アニメ・萌えアニメを視聴・所持することを「規制すべき」「どちらかといえば規制すべき」が過半数を占めたといい、それも法律制定の後押しをしたという。
 肝腎の法律の内容はというと、10歳以上の男子は、少女アニメを見るのは法律で禁止。ただし、アニメーション制作会社のスタッフやテレビ局員や映画館のスタッフ等の関係者と、娘のいる父親だけは例外である。当然ながら深夜の萌えアニメも放送禁止で、ビデオやDVDの所持ですら禁止。
 結局娘さんのお気に入りの少女アニメにチャンネルが変わることなかったテレビは、朝のニュースで、この新しく施行された法律に関する解説を放送していた。
 「児童を性の対象にした漫画は既に法律で禁止されていますが、それだけでは不十分って事です。アニメのマニアがいい年した男なのに少女アニメを好んで見るという事は、その動機の背後に必ず歪んだ欲望がある。それを防ぐための今回の新法です。」「表現の自由、思想の自由と言う人がいますが、自己の歪んだ欲望を守る自由は要りません。子供の安全を守って、次に表現の自由が来るんです。この法律がなければもっとひどい事になった事は自明です。」「このような少女アニメは、対象年齢の女の子には有益かもしれませんが、成人男性が視聴するのは児童ポルノ同然であり、有害です。」テレビのコメンテータは、声を荒げて議論を続けていた。
 ふと、自分の家の自分の部屋に、何だったかアニメのDVDを置いてあった事を思い出した。題名をなかなか思い出せない。これはさっきのマジカルはてなみたいに我々にとっての御禁制品だっただろうか。もしそうだったら、早く何とかしないと警察にタイホされる。遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきたと思うと、だんだんこちらに近付いてきた。早く何とか…… そう思っているうちに目が覚めた。


 テレビをつけると、昔見たアニメの再放送をやっていた。画面にはパーカー姿の青い髪の少女が映し出され、掛け声と共にピンク色のバトンを振り始めた。
 「うわあああーー!」私は大声を上げてあわててテレビを消そうとした。早く消さないとタイホされ……
 次の瞬間、あれは夢に過ぎなかった事に気付いた。私はほっと胸をなで下ろすと、旧友と久しぶりに再会したかのように、その懐かしい映像をしばしの間見続けていた。


※この物語も、夢の中に出てきた法律も、フィクションです。しかし、「こんな法律があったらいいのに」と夢に描いている人は少なからず存在しますし、この物語は、上にある国会議員やコメンテータの発言のような内容をかつて家庭で日常的に聞いてきた私の実体験から着想を得ています。奴らはいわゆる「二次元規制」だけで飽き足りることは決してありません!「二次元規制」の次は、「男性の少女アニメ・萌えアニメの視聴や所持を規制」の議論が必ずやって来るのは間違いないでしょう!
 もちろん、そういう主張がメディアで広まったところで、それが実際に実施される可能性は、「今のところは」ほとんどないですが、将来のことは、将来になってみないとわかりません。

*1:当然ながらネタです。現実にはこんな規則はありませんし、「はてなちゃん」もまだアニメ化されていません。