ネトランが去り、ダウンロード違法化が来る

 昔はあんなに買いたい雑誌の多かったパソコン雑誌コーナーに、以前ほどは興味を惹かれなくなくなって、幾年過ぎたろう。
 最近はパソコン雑誌コーナーというと、「誰でもかんたん」などと書かれた超初心者向けか、「お宝ぶっこ抜き!」などと書かれたアングラ……もといダウンロード厨向けばっかりに二極化して、その隙間にマイナーカテゴリの雑誌がちらほら、という状態になってきたように思うのは私だけだろうか。
 リニューアル前まで月刊アスキーをほぼ毎月購入し、その他にも自作PC雑誌を時々購入し続けてきた私にとって、これも時代の変化なのかもしれないが、少しさみしいものである。


 もう一つ気になる事がある。アングラ系雑誌の自主規制の歯止めが、だんだん無くなりつつあるように思うのが、ちょっと心配である。
 かつては、ゲームソフトのコピー等の話題を扱う際も、「これは、どこまで可能かの技術検証記事であり、実際にはこれこれの事をすると違法です」などという断り書きが一応書かれていることも少なくなかった。Winnyに代表されるファイル交換ソフトも、実態としては違法ファイル交換が9割以上を占めていたとしても、建前上は「自作ポエム交換等に使えます」「他人が著作権を持つファイルの無許諾交換は違法です」なんて感じに記事が扱われている事もかつては多かったように感じる。
 ところが、最近は、こういう建前をほとんど、あるいは全く書かなくなる傾向があるように感じる。まるで、欲しい音楽や映像ソフトがあったらファイル交換ソフトを使うのが当たり前、タダでCATVの有料チャンネルを見たければヒミツの機械を使うのが当たり前、コピーガードを外して映像メディアをコピーしたければ「画像安定装置」やDVDリッピングソフトを使うのが当たり前、タダでゲームソフトで遊びたければマジコンなるヒミツのカートリッジを使うのが当たり前、であるかのようである。*1
 もちろん私も著作権法を一字一句杓子定規に解釈して当てはめろという原理主義厨では決してないし、こういうアングラな世界に関する話題を記事にする事そのものが悪いとは言わない。私も技術的に興味を持っている分野であるし、こういうハッカー的興味は、良い方向で用いられるなら、技術的な興味を刺戟したり、ネットワークセキュリティの向上に貢献したりするだろう。
 しかしながら、法的リスク・セキュリティリスクを含めいろんなリスクがある事を「建前でもいいから」説明する事なく、初心者相手に、まるで「お宝が簡単に手に入る」かのように煽る、というのは、いかがなものだろう。特に、「本当はいけない事」という意識のない、「当たり前」の世界になってしまうのが怖い。
 最近特に呆れているのは、ゲームソフトのROMは「自分で吸い出したものを使ってください」という「建前」を書かない雑誌や本が増えてきたことである。代わりに、ROMファイルの入手法の「唯一の」紹介として、「外国にはROMをダウンロード出来るサイトがいっぱい!ここからダウンロードしてね!」といった具合に、違法アップロードされたROMをダウンロードするのが「当たり前」であるかのように扱われている。インターネットでさえ、ここまで書くサイトは少ないのに、厨房雑誌ときたら……!
 最近、著作権法改正により無許諾アップロードされたコンテンツのダウンロードが違法化されるのではないかという話が出ているが、いろんな問題が山積みであり、私の個人的意見としては、基本的に反対である。しかし、書店のパソコン雑誌コーナーで、「建前すら書かない」ほど歯止めの利かないアングラ系雑誌や書籍が氾濫しているのを見ると、「ダウンロード違法化」の是非はともかくとして、話はそろそろ出て来てもおかしくなかったかもしれない。いや、むしろ遅いくらいだったかもしれない、と思う。

*1:漫画同人誌も、元々、漫画やアニメのファンクラブ活動の一環として、自分たちの好きなキャラクターの絵を描いたりとか、その程度であれば多くの作者や出版社も黙認していた、というところだし、そういう同人活動は私は好きだけれど、昨今は「キャラだけ借りてきて、儲かりそうなポルノ漫画のネタに使うのが当たり前」という世界が広まってきているのが残念。