レトロ趣味のきっかけは「大人はわかってくれない」

 私の子供時代とは、大人が子供世代の文化を軽蔑し、無関心や反対なんて当たり前という時代でした。テレビ番組にしても、漫画のような読み物にしても、ロックのような音楽にしても、コンピュータやコンピュータゲームのような新しい技術にしても。「こんな大人にだけはなりたくない」、これが私の子供時代からの思いでした。

でも子供だって親世代の文化を軽蔑してるじゃないか

 しかし、逆はどうでしょう。子供世代が親や祖父母の世代の文化を「古臭い」「ダサい」と軽蔑する態度だって、当たり前のようにあるではありませんか。
 私は同時に「こんな子供にもなりたくない」と思いました。
 なるほど、我々は我々の世代の文化を人生の先輩方になかなか理解してもらえず寂しい思いをしているのかもしれません。しかし逆に、人生の先輩方は、自分たちの世代のことを我々に理解してもらえず寂しいのではないでしょうか。

親世代の文化に触れるきっかけ

 私の場合、親世代の文化に触れるきっかけの一つは、昭和40年代のフォークソングでした。青春時代にギター片手にフォークソングを歌っていた世代の、小・中学校の先生方には、「バラが咲いた」「翼をください」「若者たち」をはじめとしたフォークソングをいろいろ教わってきたし、両親もフォークソングが大好きで、いろいろな歌を教わってきたものでした。
 昭和から平成の世に変わったのが私の中学時代。昭和が終わったのをきっかけに、テレビやラジオでは昭和時代の歌謡曲の総括とばかりに、その時代に流行った歌謡曲の特集を多くやるようになりました。私はラジオで流れるそんな昔の歌をよくテープに録っては何度も聴いていたものでした。
 昔の歌に興味を持つようになってくると、その昭和30年代、40年代とはどんな時代だったのか、自然と興味を持つようになっています。学校ではほとんど習わない当時の歴史。私は図書館から昭和史の分厚い本を借りてきて、当時どんなニュースがあったのか、どんな暮らしをしていたのか、どんな事が流行して、どんな歌が流行っていたのか、調べてみることにしたのでした。
 そして、その時代の事を知るようになると、今度は当時の古い歌の生まれた背景が以前よりはわかって、より親しみを持つことができる。相乗効果でした。

意外なところで役立った

 時は過ぎ、1990年代も後半になると、かつてパソコンマニアを「機械とお友達になってる変わり者」「自分たちには縁がない」という目で見ていた我々の親世代の方々が、今度は逆に、パソコンの使える若者世代を「先生」と呼んで教えを請う、そんな時代がやって来ました。
 仕事で使うのでもなく、パソコンマニアでもない、ごく一般的な50代、60代、あるいはそれ以上のシニア世代までもが、まさか自分用に積極的にパソコンを買い求めて使うようになるなんて。この時代の変化を喜んだのは私だけではないはずです。
 私もパソコンをきっかけに、中高年世代の方々とのお付き合いが多くなりました。そういう方々との話題の守備範囲が広い事が、もしかしたらここで役に立っているのかもしれません。「私は仕事はデジタルばっかりだけど、個人の趣味はアナログも多いんです。特にレコードは大好きで……」などと話題に花が咲く事が時々あります(自戒もかねて書いておきますが、知ったかぶりだけは止めておきましょう。たとえば昭和40年代の大学生が学生運動家ばっかりだったかのように決め付けるのはよろしくない。それは後世の人々が抱きがちな誤解であり、実際には一部の若者が熱狂していただけで、大半はいわゆるノンポリだったとか……というか「ノンポリって何のこと?のんびりしてる人のこと?」って逆に聞かれるくらいです。「私たちの時代は東大紛争で東大受験が中止になった」とかそういう事くらいは知っていても、実際に学生運動に参加した経験を持つ人には、私は未だ遭遇した事がありません)。
 昔の歌を口ずさんでみるなら「あなたの世代でそんな昔の歌をよく知ってて偉いねえ」などと褒められることが時々あるけれども、そんなに偉いことなのだろうか、と思います。私にとっては、当然のことのようにしか思えません。
 温故知新とは、自分を育ててくれた人生の先輩方の世代の事を知りたいって思いは、そんなに普通じゃない事なのでしょうか。人生の先輩方が若者文化だったパソコンとかエヴァンゲリオン*1とかメイドさん萌えとかに興味を持ち始めているというのに、逆に我々が人生の先輩方の時代の文化を知ろうともしないなんて、恥ずかしいではありませんか。*2

*1:言うまでもなく、パチンコのキャラクターとしてなのですが……。

*2:蛇足ながら付け加えると、日本映画通を自称しながら黒澤明小津安二郎を知らないのはモグリだと多くの人は言うかもしれませんが、それなら、J-POP通を自称しながら古賀政男加山雄三を知らないのはもっとモグリではありませんか。