恋愛小説感覚で楽しめる「恋愛ノベルゲーム」

恋愛シミュレーションゲームを考える
二次元恋愛ニートのすすめ
 かつてこんな記事を書いたことのある私ですが、恥ずかしいことに、最近になるまで知りませんでした。「恋愛シミュレーションゲーム」と、「恋愛ノベルゲーム」*1の違いについて。
 実のところを言うと、耳学問的な知識としての両者の違いは知っていたはずでした。しかし、こんなにも違うものだとは、全く知らなかったのです。

おたくなのに、二次元恋愛に尻込み?

 こんなおたくなブログを開設している人なら、さぞ恋愛ゲームに詳しいのだろうとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、恥ずかしながら、今のところは専門分野ではありません。過去にやった事のあるゲームは、今回レビューするものを含めてたった4本で、しかも2本は途中で飽きて止めてしまってるという具合。*2なぜ途中で飽きてしまったかというと、残念ながら好みが合わなかった、の一言に尽きます。

 さて、私がこれで恋愛シミュレーションゲームのファンになったかというと、結局なりませんでした。
(中略)
 思えば、私自身の恋愛観と、この種のゲームの提示する恋愛観が、どこかうまくかみ合ってないのが原因かもしれません。確かに、たかがゲームの世界のお約束です。しかし、何だか義務感で女の子のお相手をしてるような感じがぬぐえませんでした。決して嫌いではなくて、話し相手としては良いけれど、自分が恋愛感情を持っていない女の子に片想いをされてアタックされた時の心情、これに似ていました。スクリーンの中の女の子の“心”ばかりがはやって、自分はそのペースにはとても追い付けず、単にゲームのルールだから適当にあしらってやる、といった具合なのです。
(中略)
 「ときメモ」は、こうやってまずはまったり話そうよという、友達としての段階がかなり端折られていて、いきなり恋人みたいにデートと来る。結局、登場人物の“人となり”を十分知る時間の与えられる前に、恋愛劇の世界に放り出されてしまう。ここらへんが、私にとって一番苦手に感じた部分だったように思います。
アキバ系文化を語るキーワード: 恋愛シミュレーションゲーム

 もちろんこれは、単に「私にはあんまり相性が合わずにそれほど楽しめなかった」という個人的問題であって、この種のゲームと相性がピッタリ合う人を非難する意図は毛頭ないし、それらの人にはとても魅力あるゲームなのでしょう。特に「ときメモ」シリーズについては、さすが人気ゲームだけあって、ゲームシステムがとても良くできていると感嘆したし、だからこそ好きな人は本当に好きなんだろうと思いました。

重い腰を上げて

 それでは、私とピッタリ相性の合う恋愛ゲームって、果たして存在するのでしょうか。
 私はこれまで「こういうゲームならいいんじゃない?」と他の人に幾つかゲームを薦められた事もありました。*3ゲームショップにPlayStation2版(以下「PS2版」と表記)の「Kanon」が並んでいるのを見るたび、「このゲームは特にいい、感動する、泣ける」というお薦めの言葉が脳裏によぎりましたが、それでもいつも躊躇するだけで、結局このゲームをレジに持って行く事はありませんでした。
 理由は後述しますが、悩む事二年半。ある日、中古屋にたまたま安く並んでいたPS2版「Kanon」を見付けて、「まあこの金額ならハズレでも惜しくはない」と、ようやく重い腰を上げてこのゲームを試してみる事にしたのでした。

Kanon ベスト版

Kanon ベスト版

Kanon ~Standard Edition~ 全年齢対象版

Kanon ~Standard Edition~ 全年齢対象版

恋愛競争に勝つ「ときメモ」と、恋愛物語の謎を解きながら読む「Kanon

 「ときメモ」の世界の恋愛観と、「Kanon」の世界の恋愛観は大きく違っている。これが、実際に両者をプレイしてわかった事です。
 前者はいわば「二次元恋愛至上主義」的な恋愛観。勉強や運動やオシャレでポイントを稼いで、積極的に女の子にアタックして、とにかく彼女を作る事が目標。
 対して後者は、恋愛をテーマにしてはいるものの、それは数多くあるテーマの一つに過ぎません。むしろ、「少年時代の楽しい思い出と悲劇、そしてそれを乗り越えていく事」、これが単なるロマンティックな恋愛をとらえる事以上に重要なテーマとして扱われています。目を疑いました、この種のゲームでまさかエロース(ロマンティックな異性への愛)以外の愛を本当に見ることができるなんて。家族愛とか、アガペーに近い私心なき愛とか。
 もちろん、どちらが優れていてどちらが劣っているという話ではありません。しかし、それぞれのゲームの目的に合った、異なるゲーム設計になっているという事に気付きました。前者は「競争」的要素が強い、つまりプレイヤーを恋愛劇の主人公として二次元の世界に引っ張り込んで、積極的に「自分磨き&彼女にアタック」をするよう促しますから、このシステムが向いています。対して後者は、「競争」的要素はありません。少しずつ少しずつ謎が解き明かされていくストーリーをじっくり楽しむ事が中心です。「エンディングが複数パターン用意されている小説」に特化したシステムが向いています。

登場人物をじっくり知る

 私は、今回PS2版「Kanon」を実際にプレイする前は、このゲームについて、ほんの少しの聞きかじりの知識しかありませんでした。雪景色、あゆという名前の「うぐぅ」が口癖の少女が鯛焼きを食い逃げする事、登場人物の少女の一人の母親が「謎ジャム」なるまずいジャムを作るのが趣味であるという事。まあこれくらい知っていれば知ったかぶりくらいはできるかもしれませんが。
 今回はあまりネタバレとなる情報を読まずにやってみましたが、ヒロインが「恋人」ではなく「友達」の段階でいる時間がかなり長かった上に、恋愛中心の生活ではないごく普通の?生活で、登場人物をじっくり知る時間が与えられたのが、とても私には合っていました。私にとっては、これくらい恋愛要素が薄い方がいいみたい。「恋愛感情のない女友達」という関係もこのゲームの世界では常識のようで、たとえば、五人の少女のうち、主人公にとってあゆが恋人だとすると、他の四人の少女は主人公にとって「知り合い」か「友達」という立場に落ち着くようです。
 登場する人数が多過ぎないのも親切です。あんまり付き合う人数が多過ぎると名前すら覚えられません。
 主人公が叔母と従姉妹の住む家に居候する事、そしてそこには過去の悲しい思い出がある事。何だか「ぼくのなつやすみ」っぽいな*4、と思いながらやってました。商店街に行くといつも自分にぶつかって来るあゆは、からかうと面白い、まるで妹のような幼なじみ。同居人の名雪は、別に恋愛感情もない*5、仲良しの従姉妹。その母親である秋子さんの声の役は――何だかすごく聞き覚えありました。「こえだちゃん」のうさちゃんというか、「あずきちゃん」の野山ママというか。そう、声優の皆口裕子さん。幼くて何だか頼りない女の子ばっかりの世界に、こういう面倒見が良くて主人公の相談にも乗ってくれる頼れる大人が一人いてくれると本当に安心です。ここすごくポイント高いです。
 「誰かとくっつく」事よりも、「謎が次第に解き明かされる」事、そして登場人物が誰かを救うために愛を込めてある行動を起こすという物語*6がむしろ重視されている、そんな内容でした。多くの人が言うように、最後の方は涙を誘うような感動的な結末が。記憶喪失モノという、まあ悪く言えば使い古された古典的骨組みの物語ではあるけれども、全体的に、比較的バランス良く料理できているように思います。
 細かいことですが、この種のゲームは、セリフのページめくりに○ボタンを何度も押すのが煩わしいもの。しかし、最近のソフトは何とも便利な機能があるもので、自動ページめくりの設定がありました。ついでに、セリフの枠を消して字幕風表示にすると、まるで映画を見ている感覚になります。
 それから、このゲームは、興味深い特徴として、一日が「現実パート」と「夢パート」に分かれています(ただし日によっては「夢パート」が無い事もある)。初めてやった人は「何で寝たのにまた昼間に戻ってるんだ?」と思いがちですが、これは、寝ている時に見ている夢なのです。そしてこれは、今後徐々に解き明かされるいろんな謎の伏線になっています。

少々の註文と将来への展望

 ただ、贅沢な註文をするなら、登場人物の女の子の声も外見も行動も、推定高校生?にしては幼過ぎで現実離れしているのが、ちょっと気にはなりました。「うぐぅ」とか「はうー」とかも。*7まあ、この手のゲームのお約束なのかもしれませんが。皆口さん演じる秋子さんの落ち着いた声を聞くと安心できたのは、ひょっとしたらこのせいかもしれません。
 次に、主人公以外の声は出るのに、主人公の声が収録されてないというのも、何だか物足りない雰囲気でした。まさか、主人公の声の役は自分でやれとでも言うのでしょうか!? まあこれは、近日発売予定のPSP版では主人公の声もちゃんと入っているそうですし、アニメ版を見ておけば主人公の声も想像しやすいでしょう。後で知ったことですが、そもそも、最初に発売されていたPC版では声そのものが入ってなかったそうなので、PS2版は主人公以外とはいえ声が入っているだけでもありがたく思わなくてはいけないようです。
 そして、背景が、悪く言えば手抜きっぽかった事。背景の一枚一枚は本当によく描き込まれているけど、もうちょっと枚数が欲しかったと思うのは私だけでしょうか。たとえば、主人公とあゆが商店街のあちこちを歩き回る場面で、一枚だけある商店街の背景を何度もワイプしながら使い回すというのは、ちょっと違和感がありました。良く解釈すれば、「もっと想像力を働かせろ」という事かもしれません。小説よりは絵がたくさんあるだけ良しとしましょうか。
 また、PC版のソフトには二種類のバージョンがあって、PS2版と同じ全年齢版に加えて成人指定版もあるとのことで、これこそが私がこの作品を長らく敬遠してきた最大の理由です。ここらへんの問題から、私と同じくこの種の作品を敬遠している方も少なからずいらっしゃると思うので、皆さんが最終的な判断を下す際に少し手助けになればと、私の感じたことを書いておこうと思います。
 私がこの作品のPS2版を実際に少しやってみた限りでは、むしろ萌え系恋愛ゲームにしてはあまりにも恋愛表現が淡泊*8であるように感じました。同じ一般指定作品でも「余裕で一般指定の枠内に収まる一般指定」と「問題となる描写をうまく婉曲表現にボカして無理矢理一般指定に抑えたギリギリの一般指定」とは別物だと私は思いますが、この「Kanon」全年齢版については、私は前者であるように感じました。ですから、それにえっちなシーンを付けたバージョンなんて本当に必要だったのか、私自身は少々疑問です。私はそのもう一つのバージョンをやった事がないので臆測の域を出ませんが、そんなシーンが付いたところで、私ならむしろ違和感を感じそうです。*9「えっちな絵を入れておかないと売れないから」仕方なく入れた、という説も聞きますが、私は声を大にして言いたいです。えっちなシーンがないと売れないというのは必ずしも真実ではない、と。それに、えっちなシーンが障壁となって、元々は優れたストーリーのはずの恋愛ノベルゲームが一部のマニアだけに受け入れられるニッチな存在になっては本当に惜しい、と。私が全年齢版でさえ敬遠し続けてきたのは、ここがずっと引っかかっていたからなので、特に言いたいことです。しかし、それでも全年齢版を用意してくれただけ良かったというものです。もし全年齢版がなかったなら、恐らく私はこのソフトに触れることは無かったでしょう。
 確かに、予算が限られている事や、人気が出るかどうか不安だったりと、大人の事情もいろいろあるのでしょうが、逆にこれをビジネスチャンスと捉えることができないでしょうか。韓国ドラマ*10を含めた恋愛ドラマや「恋するハニカミ!」「あいのり」は喜んで見るけど、恋愛ノベルゲームは知らない人々という、まだ未開拓の市場が日本には残されています。*11家庭用パソコンがマニアでない一般層にも広まって社会的に認知されたように、恋愛ノベルゲームも、将来もっと様々な年齢層や立場の人をターゲットにした作品が増えるなら、もっと裾野が広がるかもしれません。別に二次元のヒロインに恋愛をしないといけないとか堅いこと考えないで、とにかく恋愛小説感覚で読んで楽しめるものだよ、そういう事すら知らない人が、自称おたくの私のような人にさえいるくらいなのですから。

結論

 どうやら私は恋愛ゲームは全般的には今のところあまり得意でないものの、例外として、

  1. “二次元モテ圧力”が少なめで、
  2. 三者的視点から物語を鑑賞(ちょうど恋愛映画を見ているように)する事もできて、
  3. エロくないもの。

こういうタイプのものなら多分OK、ということがわかってきました。今回レビューしたPS2版「Kanon」は、ちょうどこの三つの条件を満たす作品だったように思います。

*1:ビジュアルノベル」という呼び名でも知られている。

*2:現在の内訳は、PlayStation版「ときめきメモリアル」「シスター・プリンセス」は途中まで。PlayStation版「ときめきメモリアル2」は陽ノ下光ルートのみ、PlayStation2版「Kanon」は月宮あゆルートのみクリア。

*3:その中で今でも覚えている二つは「Kanon」と「君が望む永遠」です。後述しますが、どちらも大別して二種類のシナリオのバージョンが発売されており、PC版はえっちな画像が途中で出てくるバージョンもあるので注意してください。家庭用ゲーム機版はその心配はありません。

*4:もちろんこれは恋愛ゲームじゃないし、ゲームシステムもだいぶ違うので、比較するのもアレかもしれませんが。

*5:名雪ルートだと変わるのかもしれませんが……って野菊の墓みたいな関係だなァこれって。

*6:ネタバレになるので詳しい事は割愛します。

*7:青年漫画雑誌の推定高校生?のえっちなシーンは平気なくせに、推定高校生?の萌えキャラは普通の格好でも「ロリコン、ヤバい」と顔をしかめる一般人は少なからずいますが、萌えキャラは一般に声や外見や行動を幼く誇張して描く傾向があるので、小学生と間違えてるんでしょう。まるで日本人が本当に21歳以上でもアメリカでは中高生くらいに若く見られて酒を売ってもらえない事がよくあるのに似ています。「それじゃ、お前が喜んで読んでるハチクロのはぐちゃんは小学生か? 大学生が幼児体型の女の子に恋する漫画なのか?」と小一時間問い詰めたいです。

*8:でも私にはそれくらいが良いのですが。それにしても、最後の方の芸術的に描かれていたキスシーンはあっても、萌えアニメによくありがちな、女の子の水着シーンとかお風呂シーンといった軽いお色気シーンがほとんど無かった事には、良い意味で大変驚きました。

*9:実際、成人指定の恋愛ゲームが大好きなファン層でさえ、そういうシーンが出て来ても飛ばして見ないことにしている人も一部にいる、という話を時々耳にします。

*10:時々、この韓国ドラマはこの恋愛ゲームの影響を受けているのではないか、という怪しげな説が流れる事があります。その説の真偽はともかく、韓国ドラマも恋愛ゲームも、1960年代頃の日本の恋愛映画によく見られた古典的なストーリーの骨組みの影響を多かれ少なかれ、直接的あるいは間接的に受けているのかもしれません。

*11:もっとも、この市場を開拓するのは一筋縄ではいかないでしょう。おたく受けな萌え要素を取り除いた上で、携帯電話用ゲームあたりから始めるのが正攻法か?