はてなちゃん論争に思う事。

今、「はてなセリフ」が面白い

はてなセリフ
 写真やイラストの吹き出し等に文字を入れて一コマ漫画を作る事ができるサービス。
 かつて似たようなサービスを提供しているサイトも他にありましたが、はてなセリフの良いところは、「自分で画像を用意してオリジナルのジェネレータを作成できる」ところ。
 サービスが始まって(11/28)日も浅いというのに、早速たくさんの種類の画像が集まってます。
 事の起こりははてなちゃんセリフが結構好評だったためだそうで、このジェネレータをはじめ、はてなの非公式マスコットキャラクター「はてなちゃん」に台詞を言わせるヤツが結構人気を集めてます。


 私も元画像をいくつか提供してみました。
osito さんのジェネレータ一覧


 また、私の作ってみた作品の一覧は以下の通り。ただし、はてなのマスコット犬「しなもん」等の内輪受けネタも結構多いので悪しからず。
osito さんのセリフ一覧


 ちなみに...
[はてなちゃん:“セリフ”って日本語だったの!?/英語の“Serif”だとずっと思ってた!!]
 はてセリの運営者さん、はてラボから本番運用に移行する時までには、こっそり直しといてください。

はてなちゃん ぱんつ」騒動

はセリの「はてなちゃんパンチラ画像」削除について
今回の揉め事をわかりやすくまとめるよ
 事の起こりは、例の「はてなセリフ」に、「はてなちゃん ぱんつ」と題して、はてなちゃんのパンツに文字を描くことのできるジェネレータが公開された事。はてなちゃんのイラストを描いていた数人のうちの一人である、id:ululun氏が、このネタにあからさまな嫌悪感を示したことがきっかけで、論争を引き起こしています。


 この手の論争は、私も過去に何度か経験した事があるので、「またか」という印象があるけれども、最近あまり見なくなってきたように思うので、「久しぶりにこんな光景を見たな」という印象の方が強いかもしれません。

昔「やぶうち優のエロパロ同人誌騒動」があった

 この手の論争で私の見かけたまず最初は、「水色時代」を描いた漫画家のやぶうち優が、水色時代のエロパロ同人誌を作って同人誌即売会で売っていた時の事(1996/08)。当時、ニフティサーブのとある掲示板で、このニュースに大変腹を立てて批判していたお方を見かけた事がありました。
 この方は「エロパロ描きには人権はない!」が口癖で、大のアニメ好きではあるけれども、エロパロ作家に対する歯に衣着せぬ過激な発言で有名であり、どうやら一部のアニメファン層には「怖い」と避けられていたらしい。確かに発言は過激だけれど、怒る気持ちはわかるなァ、と、当時「水色時代」が好きだった私は思ったのでした。


 また、今は無き「白色りぼんの会」*1で、直接的な性表現はなかったもののエロティックに水着を描いた絵を載せていたウェブサイトが参加を断られて、非難めいた捨て台詞を吐かれていたりした事も記憶にあります。(1996-97頃?)*2

「芸術的と言われても嫌悪感がある」

 私の運営していた掲示板で問題が起きた事もありました。ある読者から、アニメの登場人物の母と娘を裸の姿で描いたイラストを「よかったら載せて欲しい」とメールで送られてきた事がありました。私はHな絵ならお断りしているのですが、この場合は、裸とは言っても、芸術的なタッチで母子愛を表現した作品だったし、大事な部分も見えていませんでした。もっと重要な事として、「裸が描きたくて母子愛を後付けした」ではなく逆に「母子愛を中心テーマにして、その手段として裸を選んだ」作品である事が十分感じられました。そこで、少し悩みながらも、まあ良いでしょうということで載せたのでした。
 ところが、それ以前に私にイラストを送っていた、しかもプロの作品と見間違うほど上手な絵を描いていた他の方から「こういう絵と自分の絵が同じサイトに載せられていると思うと不快だ」と、掲示板でクレームが来た事がありました。
 批判する側も「このサイトにあの絵が存在すること自体が耐えられない」という一点には決して妥協する事がなかったし、この時はちょうど今の「はてなちゃん」騒動に似て、批判する側も批判される側も、デリケートというか、悪く言うと打たれ弱いというか、「もう二度と絵を描かない」なんて早まった発言をしたり、下手すると自殺するんじゃないかという雰囲気すらあったし、とにかくどううまく二人をなだめてこの騒動を収束させればいいのかとハラハラしたものでした。
 結局、問題となったイラストを寄贈してくださった方が折れて、別の当たり障りないイラストに差し替えてくださった事で問題は収束したのですが、いろいろな事を考えさせられた事件でした。当時私は掲示板上でこんな事を書いていました。

互いの信条を尊重するということ(2000/01/16)
 私もFさんと同じく、エッチな作品というのは基本的に嫌いな方ですし、そういうのは読みたくもないと感じてしまう作品ばかりです。
 特に自分のお気に入りの作品が、ひどいものだと主人公を裸のまま縄で縛ったり嫌がらせしたりするようなエロパロにされてしまうのは、正直言うといい気分ではありません。
 しかし、そのような作者がいるからといって、作者に文句を言ったり、作者に干渉するような問題でしょうか。まあ、原作者ならその権限があるでしょうが、私たちにはそんな権限はないし、そこまでする必要はないのではないでしょうか。
 たとい自分には嫌であって、到底理解不能なものであったとしても、別に自分にその趣味を強要されたとかじゃなければ、その人が勝手にやってる分には、相手の信条を尊重して、干渉せずそっとしてやりましょうよ。

 また、今回のような場合は、Oさんのような絵を描いた当人というよりも、むしろ「これは問題なし」として掲載した私が責任を負っているわけですから、今後は直接作者にクレームするよりも、むしろ私に「あの絵は問題ありなのでは? どういうことから掲載OKと判断したのでしょうか、わかりません」とクレームしてくださる方が助かりますし、問題も少ないと思います。そして私が再考した結果、絵を外すかもしれませんし、そのままにするかもしれません。どれを掲載しどれをそうしないかは私の一存にかかっていますが、それでももし納得できなければ、私のページから絵を引き上げて、必要なら自分のホームページに移動すればいいわけです。

 私自身も言葉が足りないゆえに相手に不快な思いをさせてしまうこともよくあります。自分が良かれと思って言ったことが、他人に違った意味に取られてしまうことなど、よくあるものです。掲示板とはそういうトラブルがどうしても付き物ですが、今後とも、文章を書く経験を積んでいきながら、そこらへん勉強していこうではありませんか。

丸く収まった秘訣

 しかし私が何と言っても忘れられないのが、やはりニフティサーブのとあるアニメ関連掲示板での事(1996/10)でした。とあるアニメ関連の掲示板で、ボードリーダー(板ごとの管理者)が掲示板にログインする時に表示されるメッセージにエロい内容を設定したとかで、「かなりダメージを受けた」「こういう内容には付いていけない」という反応が返ってきて少し問題になった事がありました。
 結局例のメッセージは取りやめになったのですが、もしかしたら本人は少しショックだったのかもしれません。しかしそれでも、これまで見てきた中では比較的丸く収まった方でした。
 十年ぶりに当時のログを読み返して、改めてはっと気付きました。みんな大人の対応だったんだ、と。その秘訣とは何だったのでしょうか。「批判した側と批判された側が歩み寄った」事、これに尽きると思います。批判した側は「この内容はちょっと問題ではないか」「初めて来た第三者が見ても引かずに楽しめる内容の方が良いのでは」という意見を、言葉に気を遣いながらうまく伝えようと努力し、その際には相手の立場を尊重する事を忘れなかった事。そして批判された側は、配慮が足りなかった事に関して愚痴ひとつこぼさずに謙虚に詫び、積極的に相手の意見を求めたり代替案を提案したりした事。「私のせいではないと言う方もいるかもしれないが、元をたどると私に責任がある」なんて言葉は、なかなか出てくる言葉ではありません。

立場を尊重する事と、受け入れる事とは異なる

 確かに、そもそも論として、歩み寄りや共存共栄だけが唯一の解決策だろうかと疑問を投げかける人もいるでしょう。「エロパロ描きには人権はない!」とばかりにあからさまな嫌悪をむき出しにする人々も、有名どころではid:Hayashida氏をはじめ今でも時々見かけます。
 しかし、私は過去のいろんな騒動を目にしてきたり、場合によっては騒動の関係者にもなってきた経験から、様々なことを学んできました。
 まず、エロ絵描きたちは、一部の人々が先入観として抱くような鬼畜な怪物などでは決してなく、私たちと同じく弱さを持った一つの人間である事。そしてデリケートで打たれ弱い作者も多い事。この先入観ゆえに対応を誤る人も少なくありませんが、実際には過剰な攻撃は大抵必要ないどころか、過剰な攻撃が逆に過剰な反応を生んだり、「いじめるなんて可哀想」と思われたりして、かえって自分の立場が苦しくなるだけです。
 次に、彼らの立場を尊重する事と、彼らの作品を認めたり受け入れたり好きになったりする事とは全く別である事。人によっては、後者はどうしても受け入れられないと思う人もいるでしょうし、それは個人の自由です。しかし、そんな人であっても、彼らの立場を尊重する事はできますし、甚だしく反社会的で多大の迷惑を掛けている等*3でない限りは、外の人間がどうこう言う問題ではないでしょう。
 そして、「これは受け入れられない」を主張するばかりではなく、逆に「これは受け入れられる」を主張するのも大切な事。場合にもよりますが、ただ「大嫌い、見たくもない」ではなくて、「こういう面は私は良いと思うけど、こういう面は自分としてはちょっと苦手」と言うなら、自分全体とか自分の作品全体が否定されているかのように誤解される事なく、言葉が穏やかに伝わって受け入れやすくなるものです。
 加えて、ユーモアのセンスを忘れない事。ただ「ダメ」ではなくて、気の利いた言葉を返せると、場の雰囲気をあまり壊さずに済むかもしれません。
 最後に、YesはYes、NoはNoと毅然とした態度を示すにしても、相手に応じてどの方法が適切か見極める事。大抵は柔らかく伝えた方が良いのですが、逆に「どこまでが限界か主催者を試そうとする」「明らかに悪意を抱いて場を乱そうとしている」場合は、厳しい言葉が必要かもしれません。

この時代だから大切にしたい、純情な気持ち

 それにつけても、2006年の今、少女のパンツが見えてるイラストを「不快だ」と言う人は、おたく陣営の外には星の数ほど居ても、まさか萌え絵描きでそのような事を堂々と発言する人々は絶滅危惧種だと思っていました。しかし、そんな純情な気持ちを抱いている萌え絵描きが今でも生き残っていたなんて、私としては何だかうれしいものです。このブログのタイトル通り「萌えの定義は広い」、つまり「萌え=エロと決め付けるのは間違っている」事が、この事件からもよくわかります。
 とは言え、私はid:ululun氏の反応を100%支持するわけではありません(逆に、えっちなネタがぱんつ止まりどころか、どんどんエスカレートしていたらと思うと恐ろしいので、id:ululun氏が待ったを掛けた事自体は評価するのですが、やり方が本当にマズかった)。あんなに熱くなっているのは、若さゆえなのかもしれませんが、それを差し引いたとしても、相手を挑発するような発言など、対応がまずかったのが裏目に出て、どんどん泥沼にはまっている気がして、とても不安です。

*1:少女漫画・絵本関連のウェブサイトの同盟で、Hな絵を描くサイトは参加を断られていた。

*2:後に他の方から、「参加を断られた直接の原因は、会の主催者が「猫耳が嫌い」だった為に起きた」指摘をいただきました。ログが残っていないので裏は取れないのですが、このような証言も参考までに掲載しておきます。

*3:「俺はこういうの見るのは不快だ」といった個人的な好き嫌いは、ここで言う「迷惑」には含まれません。