「シャッツキステ」の特徴を5文字以内で説明せよ


ゆるい空間


 おたく文化というと、「自室に引きこもってアニメを見たりフィギュアをナデナデしてる」「外に出たらC級アイドルにキャーキャー言いながら写真を撮る」みたいな部分ばかりがテレビで引き合いに出される事が多い。しかし、これらは全体からすると一部のおたくの生活の、また、ほんの一部分に過ぎない。
 たとえば、おたく同士のコミュニケーションも立派なおたく文化の一部である。「おたくは群れる」というのは一般人もよく知る事実だが、しかし、果たして、群れて何をやってるかについては、一般人にはあまりよく知られていないだろう。


 それがよくわかる場所が、秋葉原メイド喫茶シャッツキステ」かもしれない。先に述べたが、ここは本当に「ゆるい空間」という言葉がピッタリ当てはまる場所である。
 知ってか知らずしてか、ここにはその「ゆるい空間」を作り出すための小道具が用意されている。まずは本。ウェイトレスさんの趣味らしいのだが、懐かしい世界の名作絵本*1が用意されていて、「あーこれ昔読んだ事がある!」と、客達や、「こんな本はいかがですか」と本を薦めるウェイトレスさん達との間で、思い出話に花が咲く。
 次にボードゲーム。二、三人客が集まって、「ちょっと遊んでみようか」という雰囲気になってきたら、自然とゲームが始まっている。*2
 一人で遊べるゲームもある。それが知恵の輪。簡単なものから難易度の高いものまで、いろいろある。
 それに、店内やベランダではいろんな植物も栽培されていて、それらをのんびり眺めるのもいい。これも「最近こういう植物を育て始めた」という話に花が咲く事が多い。
 メイド喫茶に足を運ぶようなおたくが、萌え系な趣味しか興味がないというのは大きな間違いである。この店のこれらの小道具は、漫画やアニメやビデオゲームみたいな「おたくなアイテム」ではないアナログなものばかりだけれど、どれも私も含めたおたくな客に人気であり、趣味の幅広さを物語っている。
 それに、日常生活で酒やギャンブルや女の話ばかりに嫌々付き合わされている人にとっては、特にこういう知的な話題に花が咲く場所はとても貴重であり、嬉しいものである。常連客も大抵そういう話題にちゃんと付いてこられるから話が弾むし、ウェイトレスさんもそういう客に合わせて、いろんな本やゲームなどを適切に薦めてくれたりするのが親切である。


 他の客とおしゃべり*3したい人はそうすればいいし、自分の世界に入ってのんびり本を読んだり知恵の輪を試してみたければそうしてもよい。いずれにしても各々の気分次第で、思い思いにいろんな事をしながら、のんびりとした時間がゆっくり過ぎていく。そんな、高校や大学の文化系クラブ/サークルに似たゆるい雰囲気を体験できる場所、それが「シャッツキステ」の最大の魅力だと私は思う。


 話は脱線するが、この店にはユニークなサービスがある。一言で言うなら「満席で入れなくても嬉しい」サービスである。
 特に週末の夕方など、満席で入れないことがあるが、そんな時は「ブラックメルメルカード」*4というもう一つの謎のポイントカードが用意されているのだとか。満席の時しかもらえないので、こっちを心待ちにしてる人も多いとか何とか。客の「残念」をうまく「お楽しみ」に転化させるこのアイディアは脱帽ものだ。
 満席でブラックメルメルカードをもう少しでもらえそうなのに、そこで誰かがちょうど気を利かせて帰り支度をして席を譲ると「あーあ、残念」なんて声が上がったりするもので、そこが面白い店である。

 あと、クッキーの量り売りに使う分銅に犬とか兎の人形を使っているのもユニークなところ。以前は犬の「カッタン」君、今はメイドさんエプロンを付けた兎の「カッタン」ちゃんである。こういうメルヘンチックな遊び心がところどころに散りばめられていて、萌えというよりは、むしろメルヘンの方にベクトルが向いている、そんな店である。

*1:ヴィレッジヴァンガード」というサブカルな雰囲気の本屋をご存知の方は、その店の絵本コーナーを思い浮かべていただくと、その雰囲気に近いものがある。

*2:この店では「メイドさんとゲーム」はできない。飽くまでも客同士あるいは一人でやるだけである。

*3:もちろん、大声を張り上げてのおしゃべりはタブーとされている。静かに本を読んだりゲームをしている人にあんまり邪魔にならない程度に。

*4:このカードの名前は自称「裏メイド長」のメルさんに由来するようだ。ちなみに表のメイド長はエリスさんというらしい。