盲目的メイド喫茶バッシングに明日はあるか?

(10/31, 11/1追加)

 10/14に書いた、ゲームセンターに明日はあるの?と題するブログのメイド喫茶バッシングは、まだまだ続いている。

 はじめに断っておくが、私はこのブログの内容が100%嘘だと言うつもりはない。私の同意する部分も幾つかある。作者が昨今のメイド喫茶ブームに警鐘を鳴らしたい気持ちもわかる。私自身、一部のメイド喫茶がお色気路線に走っていることを危惧する内容の記事を昨年(在日外国人に「メイド喫茶」はどう紹介されているか を参照)書いているし、携帯版サイトにも、メイド喫茶に関して気を付けるべき点を、昨年11/07に「上品さと健全さを“メイド喫茶”に求めたい」という題の記事として書いたほどである。

 しかし、100%の嘘よりさらにたちの悪いのが、9割の真実に1割の嘘を混ぜ込んだ代物である。今回は、10/29付の記事の間違いについて指摘したい。

なぜといわれれば、僕にとっては基本的にメイド喫茶がどうなろうと知ったことではなく、本当に「メイド喫茶サポーター」等と称する輩がメイド喫茶を愛しているというのならば、こうした警鐘は彼等の手によってなされるべきだと考えたからだ。

現実はそうならなかった。

オタクコミュニティに属していない僕は、彼等のメンタリティを理解できていなかった。彼等は面前の女の子が鼻毛を出していても、それを注意することによって「自分が傷つく」のを恐れる、そういった臆病者の集団だったのだ。そのことに気付いたのはつい先日の事だった。

彼等にとっては「オタクコミュニティ」を存続させることが第一義であり、「それ」が正しいことであるのかといった検証が、その集団内部で行われることは一切無い。

メイド喫茶に明日はあるの?(その5)

 あそこまでおたく文化に精通していて、しかもおたくに関してネットで公に発言している人が「オタクコミュニティに属していない僕」などと言うのも笑止千万だが、今回は詳しく突っ込まない事にしこう。「オタクコミュニティ」は、みんながみんなメイド喫茶を盲目的に擁護する人ばかりの集団であると思い込むのは、大間違いである。オタクコミュニティに属していながらも“これを躍起になって否定する”Hayashida氏自身のメイド喫茶バッシングこそ、何よりの証拠である。

 風営法がらみの問題を指摘したのは確かにHayashida氏が初めてかもしれないが、たとえ法律があろうが無かろうが、水着姿で給仕する事をはじめとした一部の店のお色気系サービスを問題視する声は、何も最近に始まった事ではなく、以前より一部のメイド喫茶通から上がり続けていた事である。そしてその声は、最近テレビでメイド喫茶の様子が放映されるようになってから、さらに強まっていったように思う。テレビでは、必ずと言って良いほど、お色気系路線の特定の一店ばかり紹介され、客とメイドさんがデレデレしている様子が取り上げられるが、「こんなのメイドさんじゃない」と言う声を聞くことは、そう珍しくなかった。

 そして何よりも、ミニスカートのメイド服など認めない、ストイックなロングスカートが特徴の、ヴィクトリアン(レトロ英国風)スタイルのメイド服こそ本物だ、と主張する声や、そういうスタイルの店員が、真面目に喫茶店業務に従事する上品なメイド喫茶が欲しい、という声は、意外と根強いものである。19世紀のイギリスを舞台に比較的健全な路線でメイドさんを描いた森薫先生の漫画「エマ」「シャーリー」が売れており、特に前者はアニメ化までされている事や、今年に入って、池袋と新宿にヴィクトリアンスタイルのメイド喫茶がオープンした事、これらの事実こそ、この種の真面目なスタイルが好きな人もいるという何よりの証拠である。正直言って私は、こういう主義の人は、ウェブサイトを持っている人で数えるなら、もしかしたら私を含めて両手で数える程しかいないのではないかと思い込んでいたが、特に「エマ」がテレビ放映される頃になると、その考えが全く間違っていたことを、嫌という程思い知らされたことを覚えている。

そも「メイド喫茶」とは何か?

オタクはこれを躍起になって否定するだろうが、生い立ちを見ればその目的は明らかだ。

「アダルトゲームのキャラクターを、現実の女の子に投影する」

それが「メイド喫茶」と称するものの実態だ。

Piaキャロットにようこそ!」という特定タイトルのキャラクターから、複数のアダルトゲームに渡って普遍的に登場する「メイドキャラ」へ対象を拡散し、その実態を糊塗したもの、それがメイド喫茶である。

フロアに立つウエイトレス嬢の立場から見れば「制服が可愛い喫茶店」というだけであろう。しかし、客の目的は異なるところにある。

メイド喫茶サポーターと称する輩が、過度に「自分は潔癖である」ことを主張するのは、ひとえにその裏に隠された目的を暴かれたくないからだ。

メイド喫茶に明日はあるの?(その5)

 確かに、扮装をしたウェイトレスの喫茶店、というアイディアの起源は、1998年、ブロッコリーというキャラクターコンテンツ会社が、「東京キャラクターショー1998」に、あるアダルトゲームに登場するレストランとそのウェイトレスを模した喫茶店を出したことが元祖であり、この点、Hayashida氏の指摘は正しい。しかし、これは後のメイド喫茶に至る歴史の大きなきっかけではあるものの、飽くまでも起源の一部であることを忘れてはならない。そのゲームも、アンナミラーズというレストランの制服が話題になった事が元ネタだと言われている。また、ブロッコリーはこの企画が成功したことを受けて秋葉原にコスプレ系喫茶店を2箇所に開いたが、別にアダルトゲームにこだわっていたわけではない。同社のマスコットキャラクター「デ・ジ・キャラット」をはじめ、他の作品に扮したウェイトレスも登場していたという。

 後にこれらの店は閉店し、経営者が変わった上で大幅なコンセプトチェンジを行った「Cure Maid Cafe」という初のメイド喫茶が開店したわけだが、“複数のアダルトゲームに渡って普遍的に登場する”からメイドさんになったのだというのは、飽くまでもHayashida氏の臆測に過ぎない。仮にそれが真実だとしても、それならなぜ、その元祖メイド喫茶が、この種のマニアに受けるようなミニスカートで媚を売るフレンチメイドにしなかったのだろうという疑問、そしてその後もメイド喫茶が雨後の筍のように登場したが、「主従関係をいいことにセクハラを受ける」というアダルトコンテンツにありがちなスタイルを(たとえば首輪と鎖を付けるなど)どこか片鱗にでも残した店が、私の知る限り一軒もないのはどうしてだろうという疑問が残る。むしろ、「主人公の家に押しかけ女房的にメイドさんがやってくるが、主人公が逆にそのドジっ子メイドさんに翻弄される」の類のメイドさんコメディもの漫画/アニメ/ゲーム全般の影響の方がかえって強いように思える。

 そもそも、メイドさんが出てくる数多くのカテゴリのうち、真っ先に“メイドさん=アダルトゲームのキャラクター”を思い浮かべるのは、アダルトゲームに直接または間接に毒されている証拠だろう。これは喩えるなら、“ナース=アダルトゲームのキャラクター”と最初に思い浮かべるようなものだ。メイドさんだって同じことであり、確かにアダルトゲームにメイドさんキャラも多いのかもしれないが、他のジャンルにもメイドさんを主人公にした作品があり、人気を博している。おたく好みなアニメ/漫画作品の有名どころでは「まほろまてぃっく」「花右京メイド隊」「鋼鉄天使くるみ」など、それに、たとえば昔の漫画でいうなら「はいからさんが通る」のように、端役としてメイドさんが登場する作品となると、数え切れないほどある。一般の映画やテレビドラマでもメイドさんはおなじみのキャラクターである。私個人はアダルトゲームは一度もやったことがないが、それでもメイドさんというのは私にとってはおなじみのキャラで、昔からよく知っていた。その一つとして、1997年に放映された「総理と呼ばないで」というドラマで鶴田真由演じるメイドさんが、かつてとても印象に残っていたのをふと思い出した。

 このように、普通の漫画やアニメでも時々見かけるだけでなく、一般の映画やテレビドラマにも登場するといった具合に、特定作品や特定ジャンルに限定されない、ジャンルを超えて老若男女に親しまれている普遍的なキャラクターであり、誰もが一目で見てメイドさんと識別できるし可愛らしいと思う、最大公約数的なところが、「メイドさん」スタイルが成功した大きな要因の一つではないだろうか。さっき老若「男女」と書いたが、間違いではない。メイドさんが好きな人やメイド喫茶に行く人には女性も大勢おり、特に、先に挙げた「エマ」を描いた森薫先生については有名である。女性の場合、ゴシック・ロリータ(ゴスロリ)ファッションの愛好家という層も結構多く、そこらへんからゴスロリメイドさんスタイルに目覚めた人も少なくないように思われる。実際、ゴスロリに影響されたデザインの制服を採用しているメイド喫茶も多いように思われる。蛇足ながら、ゴスロリは別にアニメや漫画のおたくに限った事ではなく、ヴィジュアルバンドの女性ファンにもマニアが多いようだ。

 それに、当時の歴史をひもとくなら、「Cure Maid Cafe」ではむしろ制服をメイド服に切り替えた時期をきっかけに、店の健全化改革が図られた事がわかる。スカート丈の長いヴィクトリアンスタイルにしたり、写真撮影を禁止したりという、今でも続いているポリシーは、かつてのコスプレ喫茶の猥雑な雰囲気といった問題点を排除し、健全で落ち着いた喫茶店にしたいという意図があったのではないかと私は思う。実際、当時社長は「ことの始まりは“秋葉原にはゆっくりできて、ちゃんとした食事をできるところがないよね”ということだったんですよ」とコメントしている。

 もちろん、その後の全てのメイド喫茶が「Cure Maid Cafe」のようなスタイルを取り入れたわけではない。写真撮影禁止と、メイド服(っぽい服、の事もあり)はほとんどの店が取り入れたが、イベントデーには他のアニメやゲームのキャラクターの扮装をするというスタイルを取り入れて半分先祖返りしたコンセプトの店も登場したり、名古屋の店が発祥らしいが「お帰りなさいませご主人様」という例の奇妙な挨拶を取り入れて“主従関係”のロールプレイングをしたり、最近問題になっている接待的なサービスを売りにした店も登場したりといった具合に、形態が多様化していった。イベントデーに露出度の高い扮装をするような一部の店は美少女ゲームマニアをメインターゲットにした店だろうと私も昔から思っていたし、それは否定しない。しかし、そのような店が全てだと思ったら大間違いだ。「Cure Maid Cafe」のような真面目な正統派メイド路線は今なお非常に人気があるし、このような正統派メイドファン層の声を受けてか、今年に入ってから池袋の「Wonder Parlour」とか新宿の「Victorian Cafe Emily」といった、健全で落ち着いた雰囲気というメイド喫茶の原点に回帰した店も登場した。

 さて、私が考えるに、メイド喫茶ないしコスプレ喫茶というもののバックボーンと言えるものは、先に挙げたゲームのような特定のカテゴリや作品ではなく、むしろコスプレマニア文化であり、それとの密接なつながりがあると思う。コミケに行ったことのある方なら、コスプレ広場を思い浮かべていただければ話は早い。その広場には、アニメの扮装をする側と、それを見て回ったり写真を撮ったりする側とがいる。前者は自分がアニメなどのキャラクターに変身できることが楽しくて、そのキャラクターの扮装をしてポーズを取る。後者はちょうどディズニーランドでミッキーやドナルドがいたら駆け寄るのと同じように、自分の好きなアニメ等のキャラクターがいるのがうれしくて見て回ったり、あるいはコスプレ広場の常連さんはアイドル的人気が出てファンが付いたりする。

 そして、そのコスプレ広場を喫茶店に置き換えたものが、ちょうどメイド喫茶とかコスプレ喫茶と呼ばれるものの元々のコンセプトであると私は解釈する。コスプレ広場もメイド喫茶も、アニメ等のキャラクターに扮装する楽しみが動機という人が多い。ある意味、お祭りみたいな雰囲気である。一般人にわかるように説明するなら、夏とか正月に普段着ない浴衣や着物を着てみたり、そういう様子を見ると「やっぱり和服って綺麗だな」と思ったりする、そんな感覚に近いものもあるかもしれないし、外国でいうならハロウィンなどの仮装パーティーが近いだろうか。それから、見る側には暗黙の了解が昔からあって、決して手を触れたりナンパしたりしてはいけない。もっとも、見る側の心の中まで裁くことは出来ないが、少なくとも、明らかに相手に失礼になる事はタブーである。

 Hayashida氏の言うところの“過度に「自分は潔癖である」ことを主張する”人というのはどういう人のことを指すのかわからなけれども、私が見た範囲では、Hayashida氏の主張に反論している上に自らの潔癖を主張している人とは、「健全な喫茶店としてのメイド喫茶は認めるが、違法接待やお色気系サービスは問題だ」とみなしている人が多いように思える。私自身の意見としても、メイド服を制服にした喫茶店という形態そのものに何かしら法的問題があるなら止めるべきかもしれないが、それは少々無理があるだろうと思う。少なくとも、現在のCure Maid Cafeのように単なる可愛い制服の喫茶店という形態なら法的問題もほとんど無いのではないかと思う。一般的なレストランでいえば明治女学生風の袴で給仕する「馬車道」に似た程度だし、例の胸を強調した制服の「アンナミラーズ」よりずっとマシだ。イベントデーに特定キャラの扮装をするというのも、クリスマスシーズンにサンタクロースの扮装で接客をする一般の店に近い傾向のものであれば、問題は少ないかもしれない。しかし、接待的なサービスとか、露出度の高い扮装など、メイド喫茶の提供するサービスによっては、法的あるいは倫理的・道徳的に問題になり得るものもあり得るし、そういうサービスは秋葉原の風紀を乱す上に、従業員がトラブルに巻き込まれる原因になり得て可哀想なので止めて欲しいと思うのが正直なところだ。キャバレーみたいな所に比べればまだ可愛いとは言え、それでも接待的なサービスが普通になるのは、コスプレ文化の伝統的な暗黙の了解を乱すものとして、私としては到底許容し難い。

 私も以前からメイド喫茶の問題点を指摘していただけあって、Hayashida氏の意見には同意できる部分があるし、警鐘を鳴らす必要性を同じように感じている。しかしHayashida氏はいい加減、おたく=大半がエロ志向だと決め付けるのを止めるべきではないか。“オタクコミュニティ”はソ連でも北朝鮮でもないから一人一人の意見は異なるし、一枚岩ではない。思想信条や女性観も一人一人異なる。単純に「制服が可愛い喫茶店」と解釈するのはウェイトレスだけでなく、女性客を含めた客の側にも確かにおり、私も男ながらその一人である…正確に言うなら私は「可愛い」より「レトロ」の方に重きを置くタイプだが。“潔癖を主張しつつも裏で下心がある”人が全てではないし、実情をよく知りもしないのに勝手に人の動機を疑うなんて失礼にも程があると思うのは私だけではないはずだ。そういう疑念こそ、Hayashida氏の下心の裏返しではないかと根拠もないのに疑われたら、良い気持ちはしないだろう。同じ事である。メイド喫茶を愛するがゆえに昨今のメイド喫茶の問題点を指摘している人達もせっかくいるのに、自らの嘘と失言によって愚かにも彼らをみすみす敵に回す事さえしなければ、Hayashida氏の意見を支持したいところだが、残念でならない。

 最後に、例のブログは、警察の捜査日程を漏らして大丈夫なのだろうか。フィクションと言いつつ、実在のコスプレ喫茶メイド喫茶の実名を出して実際とは微妙に異なる記述をしたり、前も問題のある内容だと思っていたが、ここら辺を見ても、ちょっと常識知らずな所があるように思う。私は知らない。