“深夜アニメ黄金時代”考

 今から十数年前までは、アニメといえば夕方4〜5時台とか、7時台に放映される、子供を主な対象とした作品が多かった。ところがその時間帯はだんだんニュースやバラエティ番組に取って代わられ、夕方アニメの本数が年ごとにどんどん減っていった。少子化で採算の取りづらい子供番組よりも、大人向けのニュースやバラエティなら確実に採算が取れるという思惑だったのかもしれないが、「子供があまりアニメを見られなくなるのが残念だ」という声も時々聞いたものだった。そういえばフジテレビの「ひらけ!ポンキッキ」が、もっと対象年齢層を上に押し上げた「ポンキッキーズ」という番組に改作された(番組で鈴木蘭々安室奈美恵が兎の着ぐるみを着ていたのを覚えている人も多いだろう)のも、ちょうどその頃である。その番組も月曜から金曜まで毎日放映されていたのが、いつからか土曜の早朝になっていて、やはり民放の子供向番組を続けていくのは、今の世の中、結構大変なものらしい。

 閑話休題。かつてアニメ枠がどんどん減った時代は今はどこへやら、ここ数年、深夜アニメの成長が著しい。実際、最近のアニメ雑誌を見てみると、今や、ティーンエージャー〜成人あたりを主なターゲットとした深夜アニメが結構な割合を占めていることが一目瞭然である。

 なぜ深夜アニメが増えているのか。それにはいろいろ理由がある。一部の人には誤解されているかもしれないが、深夜アニメだからといって、必ずしも全てがいかがわしい内容とは限らない。硬派な内容の作品もあるし、録画して後で家族みんなで楽しめるような健全な作品もいろいろある。そして、「他の時間帯がいっぱいで、深夜枠しか取れない」という理由で、むしろ本来なら日中や夕方に放映すべき番組が、あえて深夜枠に追いやられている例もある。たとえばかつてTBSで深夜に放映されていた「ちっちゃな雪使いシュガー」は、子供たちにこそ見せたいメルヘンチックな作品であった。現在放映されている「英國戀物語 エマ」も「ガラスの仮面」も、むしろマニアでない人にこそ見て欲しい作品であると思う(逆に、従来のアキバ系メイドさんアニメに慣れている人にとって、「エマ」の上品でストイックで地味でまったりした世界は、どうやらついていけないものらしい)。

 なるほど、このように一般人の視聴にも堪えうる作品も確かにあるとは言え、もちろん、深夜アニメの主役は美少女系のいわゆる「萌えアニメ」であることに間違いはないし、恐らく一番マニアの財布の紐を緩めている(そのためアニメ制作会社としては採算の取りやすい)カテゴリだろう。代表的なパターンとしては、さえない主人公が何故か美少女になつかれて大変、とか、主人公のもとに突然自分に忠誠を誓う可愛いメイドさんがやってくるけど、その娘はいつもドジばかりで大変とか、セーラームーンをもっとセクシーにしたみたいな美少女戦士とか、その類である。私が思うに、この種のカテゴリには駄作もあれば良作もある。「キャラが可愛いだけでストーリーがイマイチ」な作品とか、下心があざとい感じの作品も確かに多いけれど、中には定番パターンにとらわれないユニークな趣向の作品もあり、そういう中に面白い作品がたまに見つかることがある。そういう、あまり一般には知られていない良作を発掘するのも、深夜アニメの楽しみと言えよう。

 また、深夜アニメはアニメのクリエイターにとっては新たな映像表現や新たなカテゴリなどへの挑戦の場と言えるかもしれない。製作者のこだわりの詰まった、従来のアニメよりもずっと高い品質の動画である事も珍しくない。あまり手抜きせずに人物や背景がグリグリ動く贅沢な絵作りは、DVD-BOXをポンと買えるだけの財力を持つ大人を主対象にしているからこそ、金に糸目をつけずに挑戦できるのかもしれないし、特にアニメ製作がデジタル化されてからはコンピュータの助けも借りながら新たな表現技法を次々と生み出している。

 このように、現在はまさに“深夜アニメ黄金時代”であるが、考えてみるとこれは「アニメ制作会社が真剣に大人をターゲットにしている」時代と言える。「いい年した大人が、子供の見るようなアニメなど見て」という言葉が死語になる時代は、もしかしたら意外と早く来る可能性があるのではないか。最近私にはそんな気がしてならない。