「不安を煽りたがる第三者」という存在

 6/20に、かの有名なLZW特許が日本で期限切れとなった。LZWとはGIFファイルをはじめあらゆる分野で利用されているデータ圧縮法の一つであり、かつて米国UNISYS社が特許を保有していた。当初、フリーソフトウェアからは特許使用料を徴収しないとしていたのに、GIFファイルがかなり普及した頃、突然、フリーソフトからも高額の特許使用料を徴収することに方針変更されたものだった。これはUNISYS社の側から見るならば、当時、シェアウェア等金銭を徴収するソフトであっても、GIF読込部分だけ無料の別プラグインに分割して特許使用料逃れをする手口が横行していたため、方針転換もいたしかたない部分があったのだろう。しかしこの突然の方針転換は、GIF対応のフリーソフト作者には非常に評判が悪かったのは確かである。

 そこで、特許使用料の要らない、GIFに代わる画像形式を、ということで、PNGフォーマットが生まれた。今でこそ多くの画像編集ソフトやウェブブラウザで利用できる一般的なフォーマットになったが、PNG推進派の思惑通りの速やかな普及ではなかった。原因はいろいろあるが、その一つとして、一部のPNG推進派の宗教がかった“PNG布教活動”が反感を買っていたこともあるだろう。実際彼らは、LZW特許に関する不安を煽る点ではUNISYS社よりずっと上手だった。UNISYSは「ライセンス済のソフトで作られたGIFファイルをウェブサイトに載せるのは問題ない」としていたのに、一部のPNG推進派は「それでも危険だ、GIFは今すぐ止めなさい、UNISYSに目を付けられたら幾ら払わされるか知りませんよ、代わりにPNGファイルにしなさい、PNGファイルはこんなに便利だし、PNGへの変換ツールもあるから今すぐ使いなさい」と、PNG普及のためなら、デマをばらまいて不安を煽ることなど何でもないといった雰囲気であった。一時期“GIFファイルを作成したり配布したりすると、米国UNISYS社に特許使用料として五千ドル払わされる”などという、少々不正確な噂が流れたこともあるが、この噂を熱心に流布していたのは、UNISYS社ではなく、UNISYS社のライセンスプランの一つを針小棒大に取り上げた、彼ら一部の狂信的PNG崇拝者たちであった。

 そのような一部の噂は決して真実ではなく、“たとえライセンス済ソフトで作られたものだろうが、ホームページでGIFファイルを使うとUNISYSから五千ドルの請求書が来る”なんてことは、今日の今日まで一度も無かった。大体、GIFのLZW特許について心配していながらも、自分のサイトでアニメのエッチなパロディを描いてた人もいただろうが、GIFをあんなに心配するならまずそっちの方を心配した方が良いぞ、と思っていたのは私だけだろうか。GIFは止めなさいと主張するのと同じくらいの熱心さで、WinMXWinnyで違法ファイル交換することのリスクを警告していた人は、果たしてどれだけいただろうか。たとえWinnyを使うことを「ネットランナー」や他の“厨房雑誌”が煽るほど一般化していようが、こちらは五千ドルで済むような問題じゃあない。

 「実際にやくざが家に取り立てに来る」かのような不安を、当事者である業者が煽って被害の増えている架空請求詐欺のようなものもあれば、このように三者が一番デマを煽っているというものもある。「GIFファイルはライセンス済ソフトを使っても特許使用料が要る」というデマ然り、「わざと事故を起こして法外な金を請求する『当たり屋』」のデマ然り、「○○という言葉は差別用語で、人権擁護団体に目を付けられるとあの怖い糾弾に遭う」という少々不正確なデマ然り……。

 さて、LZW特許の切れた今、かの過激なPNG信奉者はどうしているだろう。若さ故の熱心さだったかもしれぬし、過去のことをこれ以上ほじくり返すのも可哀想なので、そっとしておいてやろうか。