レシートの束は札束なり

 店のレシートをすぐ捨ててしまう人も多いだろう。しかし自営業者にとって、レシートや領収書の束は、まさに札束そのものに等しい存在だ。なぜかというと、所得税から必要経費の控除を受ける時の計算に必要なのだ。言葉を代えるなら、商売する上で必要なものを買った記録が証拠として残っていれば、税金が安くなるということである。


 もちろん、コンビニや弁当屋で買った自分の分の弁当は必要経費に含まれないから、店内のゴミ箱にポイで構わない。しかしボールペンや帳面や領収書用紙などの事務用品は、必ずレシートを取っておかなくてはいけない。最近は100円ショップダイソーで事務用品等を揃えることもあるが、その時は具体的に何をいくら買ったのか、買った後すぐレシートにメモしておくことが大切だ(そうしないと、何のための経費だったのか後でわからなくなる)。ガソリン代も必要経費になるが、これがなかなか馬鹿にならない。かなり重要なのがパソコンやパソコンソフトや周辺機器であり、単価が高いだけにレシートを一枚無くすだけで大変な損失である。

 たとえば課税所得金額(所得−控除)が330万円未満の場合、その10%が所得税になる。逆に言うなら必要経費の10%だけ税金が安くなる。一年間にガソリン代を10万払っているなら、10%の1万円税金が安くなる。3万円のパソコンソフトを買ったなら、3,000円税金が安くなる。それでは、15万円のノートパソコンを買ったら15,000円分税金の控除を受けられるかというと、これはダメである。10〜20万円のパソコンは「消耗品」ではなく「資産」扱いになり、三分の一づつ減価償却することになる。つまり今年は5,000円分しか控除を受けられない。しかし来年と再来年も5,000円分控除を受けられる。20万円以上のパソコンとなるとまた算式が違ってくるが、割愛する。

 とは言え、商売に使ったものは100%必要経費になるわけではない。家事分を取り分ける必要がある。たとえば自家用車を仕事と兼用で使っている場合、自家用が半分、仕事が半分の割合で使っているなら、自動車の購入費や修繕費、ガソリン代等は半分が必要経費となる。家賃、水道光熱費、パソコンなど他のものも同様である。


 これら必要経費がかかったことの証拠となるのが、レシートであり領収書である。レシートがあれば領収書は特に必要ないから、私はレシートがあるならわざわざ領収書を切ってもらうことはしない。しかし、レジでわざわざ「領収書をください」と言う人がいるが、それはどうしてだろう。

 まず最初に考えられるのが、レシートは税務署に認めてもらえないと誤解している人が多いことだ。実際にはそんなことはない。そうでないとしたら、脱税目的も多い。後者の例でよく見られるのは、必要経費として認められないものを買った時に、但し書きを「品代」とか別のものに変えて領収書を切ってもらい、その領収書を根拠に必要経費と偽って計上することがある。あるいは、あまり金額が高い品物は資産扱いで減価償却しないといけないので、それを避けるために領収書を分割して発行してもらうことがあり、これも脱税である。

 さて、水道光熱費など銀行引落の経費の場合はどうかというと、通帳の記載が証拠となる。ところが、通帳は気を付けないといけない点が一つある。長い間通帳記入していないと、その間の明細データがパーになってしまい、数ヶ月分の入金・出金の合計金額しか通帳に記入されない。以前はこのような時、通帳に記入されなかった分を郵送してくれた親切な銀行もあったが、今ではサービス簡略化のため、それを行わないこともある。何を隠そう私も一度それをやってしまったことがあり、どうしても経理上必要だからとしきりに御願いして、本来は原則として行っていないのだけれど、特例としてその間の明細を郵送で送ってもらったことがある。それで事なきを得たのだが、それ以来はできるだけ毎月通帳記入するようになった。面倒臭がりは良くない。

 問題がもう一つあった。セルフのガソリンスタンドによっては、プリペイドカード方式を採用している。カードへの入金も可能であり、入金金額と入金日がカードに印字されるのだが、印字欄がいっぱいになると新しいカードが発行される。その際古いカードはどうなるかというと、機械に回収されてしまうのだ。いつ入金したかの証拠が水の泡、しまったと思った時には時既に遅し。皆さんも気を付けていただきたい。