食品添加物の常識を疑え

食品添加物は百害あって一利なし」?

 最近、「買ってはいけない」という本の続編が出たそうだ。この本の著者のように、食品添加物は百害あって一利なし、絶対追放すべきものと考えている人は少なくない。

 しかし、果たして本当にそうなのだろうか。私はあえてこの意見に反論する。

 まず、食品添加物には確かに利点もあり、そのために作られたものである。たとえば悪者食品添加物五本の指に入る合成保存料。今では冷蔵・冷凍技術やフリーズドライ等の食品加工技術によって出番が減ってきたが、昔はそんなハイカラな技術はなかったから、食品を長く保存させようと思ったら、塩漬けや砂糖漬けに缶詰・瓶詰、それができなければ合成保存料に頼るしかなかった。これがなければ、食中毒のリスクはずっと高かっただろうし、どれだけの食糧が無駄になったことだろう。

 合成甘味料も、昔はズルチン、チクロ、サッカリンなど色々使われてきたし、ブドウ糖を混ぜた砂糖が砂糖として売られていたという話も聞くが、戦後の食糧難の時代、砂糖は本当に足りなかった。砂糖が足りなければ合成甘味料に頼らざるを得ない。今では砂糖は安くいくらでも手に入るから、わざわざサッカリンを使う必要もなくなってきた。合成甘味料が食糧不足を補うためでなくダイエットブームのために使われるなんて贅沢な時代である。

 着色料や香料は、食品を引き立てる脇役ではなかろうか。色づけや香り付けをして見た目や香りを引き立てるのに用いられている。確かに、できるものなら天然の着色料や天然の香料を使いたいものだ。私もケーキやアイスクリームを作るなら是非とも合成のバニラエッセンスでなく天然のバニラビーンズを使いたい。しかし天然のものは高いし、扱いも少し面倒くさいので、結局バニラエッセンスに頼る事になりがちである。

 もし缶コーヒーを飲んでいるなら、コーヒーと一緒に乳化剤も飲んでいるかもしれない。水と油は分離することを皆さん御存知だと思うが、缶コーヒーの中のミルクはそのままでは分離してしまう。乳化剤はそれを防ぐ役割がある。脂っこいクリームの浮いた缶コーヒーなどという不味いものを飲まずに済むのは、ひとえにこの乳化剤のおかげなのである。

 このように、食品添加物は加工食品の味を守ったり、色や香りを引き立てるなど、良い面もあるのは確かである。もちろん私は、食品添加物によっては健康に問題があり得るということを無視したいわけではない。しかし本当に大切なのは、食品添加物を100%避けることではなく、食品添加物のリスクを抑えることである。

 しかしこの際も、食品添加物反対論者のよく引き合いに出す、「マウスやラットは何mg食べると死ぬ、だから人間にも害がある」という議論に騙されてはいけない。たとえば塩化ナトリウムのLD50(50%致死量、つまり実験動物の半数が死ぬ量)はラット経口で4000mg/kg、つまり1kgのラットなら4gの塩化ナトリウムが致死量となる。

 しかし、「たった4gでラットが死ぬなら猛毒だ」というのは早とちりであり、我々は昔から塩化ナトリウムを豊富に含む食塩を毎日の料理に使っている。人間の量に直すなら、たとえば60kgの人間なら240gが致死量である。つまり缶ジュース一本分に近い重量の食塩を一気に飲んでやっと死ねるというもので、そんなの飲めないだろ、無理矢理飲もうとしたって途中で吐いてるさ、となる。
 それに、我々はこの致死量240gの塩化ナトリウム、いやそれ以上の量を既に摂取しているのである。もし食塩を一日1g摂取しているなら、一年で365g摂取していることになる。しかし死ねないのは何故だろう。わからなければ自分の小便でもなめてゆっくり考えるがいい(摂取したものはすべて蓄積されると考えるのは大間違いである)。