顔文字登場20周年

 一番原始的な顔文字である:-)が登場して以来20年になるそうだ。

 私がこの顔文字に出会ったのは、学生時代、学内ネットワークの電子掲示板で見たのが最初だった。まだWWWがなかった時代だから、掲示板といっても今のようなものではない。データゼネラル社のMV/10000というミニコンの、AOS/VSというOS(今だけでなく昔でさえマイナーだった)の上で動く、キャラクタベースの掲示板を、ある教官が自作したので、それを利用していた。

 時々、文の後に見受けられる:-)のような記号を、最初はゴミなのだろうと思ってあまり気にも留めていなかったが、後に、ある教官が顔文字の一覧表なるものをその掲示板に投稿して、ようやく謎が解けたのだった。泣き顔X-(とか眼鏡をかけた顔8-)など本当に沢山のバリエーションがあることも同時に知った。

 思えばその時以来、私は顔文字をよく使うようになったのだった。後に日本で(^_^)や(^_^;)のように90度回転させなくても見られる顔文字も発明され、むしろ私はこちらの方を使うようになっていた。


 さて、私が顔文字に出会って12年の歳月が過ぎたが、今では顔文字はほとんど使わなくなってしまった。昔と比べ、あまり必要性を感じなくなってきた。

 これまで私は、電子メールや掲示板の昔からの伝統に従って、適度にくだけた文体を使った方が良いと考えていたので、少々“タメ口”ぽい言い回しに、顔文字を多用していたものだった。しかし、いつ頃からか、顔文字をあまり使わない派にゆっくりと転向してしまった。漸進的な変化だったので、いつがきっかけだったのかは、はっきりとは覚えていない。顔文字嫌いの人とメールをやりとりした時だったかもしれぬ。あるいは、私が正字正仮名遣ひでの文章の書き方を独学し始め、伝統的な美しい日本語の魅力というものに目覚めた時だったかもしれぬ。

 「自分が冗談で書いた事が相手に誤解されずに済む」だの「コミュニケーションが円滑にいく」だのという理由を挙げて、インターネット初心者に顔文字の使用を大いに推奨している本があるが、何か勘違いしている。「手紙で冗談の後には(笑)を書けば誤解を防げる」などと解説する「手紙の書き方」の本がどこにあるだろう。むしろ、手紙を書く上での正しい国語表現や注意点を優先して教えているはずだ。同じように、インターネット初心者は顔文字の書き方を覚えるよりもむしろ、顔文字なしでも「コミュニケーションが円滑に」いく、わかりやすい文章を書く事こそ最初の目標としなくてはならないはずだ。顔文字を覚えるのはそれからでよい。

 そもそも、顔文字を使わないと自分の気持ちが相手に伝わりにくいというのは迷信である。顔文字を使ったって誤解する人は誤解するし、あまり関係ないものだ。それなら、文章表現技術の方を磨く方がよほど役に立つ。

 とは言え、私は顔文字否定派ではない。今でもたまに顔文字を使っているし、アスキーアートは自分でも創作しているくらいである。昔の私がそうだったように、文章表現が下手な人は顔文字の助けを得るのも良いだろう。顔文字をワンポイント使うと和んだ雰囲気になるかもしれない。しかし、私自身が使ってきて思うのだが、顔文字はあくまでもくだけた文章向けであるし、濫用し過ぎると、自分の意見の自信のなさをカバーしているかのようで少々見苦しくなるという諸刃の剣。使い過ぎはおすすめできない。