「実名公開でネットが良くなる」が嘘である5つの理由

弁護士の小倉秀夫氏に聞く ネットでの誹謗中傷問題(中) 実名を使うのが基本 それがネットをよくしていくへの反論です。

実名を 名乗って平気で 嫌がらせ

 インターネットで嫌がらせをする人物は、「匿名の卑怯者」だけではありません。「実名の卑怯者」もいます。
 そういう人たちにとって、「実名」は何の抑止力にもなりません。
 加えて言うなら、「実名の卑怯者」は「確信犯」であるだけに、「匿名の卑怯者」よりも、よっぽどたちが悪いものです。自分の行為は嫌がらせではなく、正当な行為だと信じて決して疑いません。

ご近所さん ネットの外で 嫌がらせ

 たとえインターネットで実名を名乗る事を義務化しても、その決まりはネットの外には及びません。
 インターネットで嫌がらせの「犯行予告」をすれば足が付く……と思っている人がいたら、考えが甘い。
 犯人はネットではただ見てるだけで、何も発言しないけど、陰でコソコソ根も葉もない噂を立てていて、家族や会社やご近所さんの耳に入る、というケースがあります。
 実を言うと、私もこの手の嫌がらせをされて迷惑した事があります。「実名公開」でインターネットだけ良くしようとしても、全く無意味です。
 ブログを荒らされるのはとても不快な体験ですが、それでもまだ、ブログを潰されて誹謗中傷されて精神的ショックを受けるだけで済みます。しかし、ブログから匿名で荒らす人を追放できたとしても、今度は嫌がらせが自宅や会社にまで及ぶとしたら、もっとひどい事態になるでしょう。
 「炎上の 前に 自宅が 炎上だ」なんて事になったり、命まで狙われることはまれとしても、自分の家族や友人まで巻き添えにする事は、きっと間違いありません。

アングラで 海外サーバで 嫌がらせ

 「インターネットでは実名を名乗るようにする」事をマナーとして広めたり、あるいは法律で決めれば、嫌がらせが止むという保証はどこにもありません。
 マナーや法律などどこ吹く風で、アングラなサイトで中傷を繰り返すでしょうし、日本の法律の及ばない海外サーバも大活躍。大体、今でさえ法律すれすれの嫌がらせをしている連中の事ですから、たとえ法律で禁止されるようになったところで、結果はもう見えています。

被害者を 騙れば 名前 手に入る

 小倉秀夫弁護士のように、「ペンネームを使うにしても、何か問題があった時だけ、被害者が加害者の氏名と住所を知る事のできる仕組みがあればいい」と考えている人もいるかもしれません。しかし、この仕組みは簡単に悪用されてしまいます。
 「自分は被害者だ」と嘘を吐けば、ストーカーや悪徳企業等が、相手の個人情報を取得できてしまうのですから。こんな危ない話はありません。
 一方で、本当の被害が発生した時、加害者が本当の氏名や住所を登録しているという保証はあるでしょうか。偽の氏名や住所を登録していたり、海外のサーバを経由し、身元を隠してアクセスしているかもしれません。
 もっと心配なことがあります。無線LAN不正アクセスする、IDとパスワードを不正利用する、スパイウェアを使う等の方法で、犯人が他人の契約している回線を乗っ取って嫌がらせをした場合はどうでしょう。被害者がプロバイダに身元の開示請求をした時、プロバイダが正しい犯人の氏名と住所を開示する事は全く期待できません。状況にもよりますが、回線を乗っ取られた被害者が身の潔白を証明するのは困難ですから、どうなるかは自ずと明らかでしょう。

盾奪い 敵に急所を つかませる

 それでも、「実名公開」のメリットとデメリットを天秤に掛けた時、もし仮にメリットの方が十分に高ければ、「実名公開」制の導入を検討する価値は十分にあるでしょう。
 しかし、これまで理由を挙げてきたように、実名公開の義務化は、「嫌がらせの抑止効果」「犯人を捕まえやすくする」メリットよりも、「自由な発言を萎縮させる」「犯人にネットよりひどい嫌がらせを受ける」リスクの方が高いのが、残念ながら現状です。「正直に実名を出す嫌がらせ被害者には圧倒的に不利で、マナーや法律がどうあろうと実名を隠したり、堂々と実名で嫌がらせをする加害者には圧倒的に有利になるような対策」としか言いようがありません。
 そんなわけで、ネットで嫌がらせをするのが大好きな人たちは、嫌がらせターゲットの個人情報を引き出す大義名分として利用できる立派な文句を次々と考えてくれる「実名原理主義者」たちに大いに感謝しましょう。(棒読み)


「実名公開でネットが良くなる」なら警察なんて要りません。
そんな漫画みたいなユートピアと現実を混同してないで、早く現実に帰りなさい。