地元と巡礼者の相互理解を

2007/07/26補足:この騒動の火種となったブログの内容は、捏造が含まれていた事や、久喜市を気持ち悪いほど溺愛して他の市町村を蔑む、異常な発言を繰り返している問題人物であった事が判明したようです。以下のブログを参考になさってください。
らき☆すた 巡礼騒動(まとめサイトではありません・電話確認のみです)
ぜろだまBlog: オタク禁足命令<追記アリ>
ぜろだまBlog: オタク禁足命令(2)〜電波に触ってしまいました〜
もちろん、例のブログが捏造だったからと言って、「旅の恥はかき捨て」が許されるという意味ではないので、念のため釘を刺しておきます。安易な行動は謹んで、本当に行く必要があるのかよく考えて、もし行くのであれば、「巡礼」という言葉の本来の意味にふさわしく、旅行先や近隣住民への礼儀を心掛けましょう。

物語の舞台となる地を訪ねたい、という思い

オタクが集まる鷲宮神社
小説や映画やアニメ等の舞台となった地を訪問したい、という人は、老若男女かかわりなく、いるものです。
伊豆の踊子」の登場人物の歩いた道のりをたどるもよし、熱海の海岸を歩きながら「金色夜叉」の貫一・お宮に思いを馳せるもよし、「男はつらいよ」の舞台となった葛飾柴又を散策するもよし。
その近くは「野菊の墓」の舞台でも有名な「矢切の渡し」があったり、葛飾亀有は漫画「こち亀」の舞台。
熱心なファンは、海外へ足を運ぶこともいといません。「赤毛のアン」の舞台となった、カナダのプリンス・エドワード島へわざわざ足を運んで、「グリン・ゲイブルズ」を見に行ってきた、という観光客も多いそうですし、最近では「冬のソナタ」のロケ地ツアーが話題となりました。

木更津市の例

私の住む木更津市にも、物語の舞台となった名所があちこちにあります。
一番古いのが日本武尊の伝説。嵐を静めるために海に身を投げた弟橘姫を偲んで高台から海を見つめたと言われる場所は「恋の森」と呼ばれています。
「与話情浮名横櫛」あるいは通称「切られ与三」という歌舞伎の題名を知る人は少なくても、それを元ネタにした春日八郎の「お富さん」という歌、と聞くと「ああ、あの死んだはずのお富さんの」とピンと来る人が多いでしょうが、木更津には、「与三郎の墓」や、お富と与三郎が逢瀬を楽しんだとされる「見染の松」があります。
「証城寺の狸ばやし」の歌を知らない人は少ないでしょうが、そのモデルとなった「證誠寺」は、木更津にあります。


しかし最近は「木更津」といえば、何と言っても「木更津キャッツアイ」を真っ先に連想する若者が多いのではないでしょうか。
実際、木更津市としても、バブルがはじけて寂れた今、ロケや観光客を有り難がってるように思えます。木更津市そのものや、舞台となった、みまち通り商店会そのものが、ロケや巡礼者に協力的で、駅前で観光マップを配布したり、猫の絵の付いたレンタル自転車(通称「猫チャリ」)を用意したりしているほどです。残念ながら、駅前商店街に昔のような活気が戻るには、まだ解決しなくてはならない問題が山積みです。それでも、わざわざロケ地を訪問してくれるいわゆる「巡礼者」に暖かい、この和やかな雰囲気は、なかなかうれしいものです。


もちろん、問題が何もないわけではありません。一部の心ない巡礼者による落書き、これが一番深刻な問題です。「木更津キャッツアイ」の作品中や、氣志團によって歌にもなった、赤い「中の島大橋」は、昔から落書きのひどい橋でしたが、この作品が始まって以来、落書きがさらにひどくなったという話も聞きます。商店街の壁にも落書きされたり、テレビにも出た、商店街の狸の像が盗難に遭いそうになったりした事もありました。
それから、巡礼者たちが集団で騒ぐのも問題になった事がありました。ドラマを真似て、円陣を組んで「木更津ー!キャッツ!ニャー!キャッツ!ニャー!キャッツ!ニャー!」と叫んだりするので、近所の人が何事かと思った事もあった、と聞きます。*1
落書きについては、シンプルだけど比較的効果的な解決策が登場しました。観光客向けに大きなメッセージボードが、映画館や商店街などに出現したのです。観光客が旅の思い出にメッセージを残せる場所をわざわざ作ってくれるなんて、粋な取り計らいです。おかげで、その他の場所への落書きは比較的少なく済んでいるように思います。

巡礼者は迷惑?

木更津市から別の場所に目をやるならば、物語の舞台となった土地への巡礼者が迷惑がられる事も、時には見受けられます。特に、アニメの舞台となった場所への巡礼は、とかく迷惑がられる傾向があるように思えます。それはなぜでしょうか。


まず、「地元住民がそのことを全然知らない」事が一番の原因かもしれません。
実写のドラマや映画なら、実際に現場で撮影が行われるために、「あそこで撮影してたのが、今度テレビに出るんだって!」と、地元ですぐ話題になります。一方、アニメは、せいぜい一部のスタッフがロケハン(現地の視察)をする程度で、まず目立ちません。スタジオジブリの作品とか、サザエさんのオープニングくらいに、中・高齢者層にも知名度の高い作品なら、それでも話題になりますが、深夜アニメとなると、コア・ターゲットであるティーン〜30代の男性ですら、ほんの一部しか見ていないほどであり、本当に知名度が低いものです。


次に、「地元住民はよそ者が気になる」事も挙げられるでしょう。
何か変わったことがあれば、すぐ尾ひれが付いて「ヤッバーいウワサ話」に化ける様な土地では、特にその傾向があるかもしれません。
ハイキングコースとしてよく使われる道というのならともかく、普段地元住民しか見かけないような場所によそ者の集団が来ていると、「あれはどんな人なんだろう」と不思議に思わない人はいないでしょう。「ブサイクがだらしない服装でいたから」ではなくて、とにかく見知らぬ人だから気になる、それだけです。たとえ、きちんと整えた髪に、上品な背広やドレスという出で立ちであっても、それが「よそ者」であるなら、同じように気になります。
そして、おたく集団は、一般人にとって「ただのよそ者」ではありません。特に、「自分たちが見下げ、除け者にしてきた奴らが集団でいる」からこそ、そういう人々が集団がぶあああっといるだけで、何とも言えぬ恐怖で疑心暗鬼になるのかもしれません。たとえ実際にはひどく臆病で、自分たちに噛み付かないとわかっていても、です。


また、「若者ばかりの集団」が「自分たちの理解できない事に夢中になっている」というのは、それだけでもとかくバッシングの材料にされがちですし、そういうバッシングが好きな人々というものがあります。*2これはアニメに限ったことではありません。今ではだいぶ下火になりましたが、かつてはオートバイのライダーはあまり良い目で見られてなかったかもしれません。暴走族全盛期に、真面目なオートバイ愛好家までもが「暴走族」と同一視される事は、よくあったものです。
加えて、残念な事に一部の巡礼者によるマナーの悪さが、こういったバッシングに「口実」を与え、「それ見ろ、大半がマナーの悪い人ばかりではないか」「見てるだけでキモい」などといった暴言へとつながっていくものです。


とは言え、今回の「らき☆すた」で有名になった神社に関する、ブログや掲示板で見掛ける「近隣住民」の「苦情」とやらが、どこからどこまでが正しいのか、私は実際に行って裏を取った訳ではないので、判断は保留しておきます。神社や民家や公共施設に落書きしたり破壊行為をしたりという話はまだ聞かないまでも、住民への配慮に欠けた行動が一部に見られるらしいのは残念であり、我々も注意していかなければなりません。


来訪者側のマナー違反についてたっぷり語った後は、住民側のマナー違反についても書いておきましょう。確かに、「もっと気遣い、できませんか」と指摘するのは大切です。しかし、一部に見られる、おたくな観光客を「誘拐殺人犯」の同類であるかのように勝手に決め付けている失礼な発言は、マナー違反ではないでしょうか。
大体、「おたくはブログでコソコソ反論するだけの意気地無し」と言う自分たちが、彼らに面と向かって注意せずに、「ブログでコソコソと中傷する」のは、ギャグにしか思えません。知人・友人の間やネットでうわさ話している内容を、そのまんま本人に言える勇気もないチキンのくせに。「あなた方を見てるだけで気持ち悪いので、来ないでください」「くれぐれもうちの娘に何かするのだけは止めてください」って、本人になんで直接言えないんでしょう。「見るからに少女を狙いそうなアニメおたくの不審者に注意」「こんな風貌のキモ男を見たら警察に通報しましょう」という警告ポスターを作って家の塀に貼るなんて人もいないのは、なんででしょう。*3まあ、こんな提案をしても、「そんな事するなんてバッカじゃないの」と言われて人格を疑われる程度が関の山かもしれませんが、そんなに恥ずかしい事なんでしょうかねえ。

相互理解が必要

さて、この問題、どうすればいいのでしょう。まずは「相互理解」からかもしれません。巡礼者は、地元住民の気持ちを考える、地元住民は、巡礼者の気持ちを考える、という事です。


「巡礼者」とは言え、その場所を「自分たちの聖地」とみなして「自分たちの聖地なのだから、大いにはじけよう!」といくのは考え物です。自分たちは、地元住民の住んでいる場所にお邪魔している「よそ者」である事を自覚して、通行の邪魔をしたり大声でしゃべるなど迷惑になる行為は慎む、これは基本中の基本です。
小さな田舎の街では、都会と違って、通りがかりの人たちや、ちっちゃなお店に立ち寄った時などに、挨拶をするのが効果的かもしれません。地元の人に「どこ行くの?」などと聞かれるかもしれません。これを「地元の人々に好印象を残すチャンス」ととらえて、礼儀正しい行動を心掛けましょう。
特に、「地元の人はそのアニメの事は、題名すら全く知らないかもしれない」のですから、くれぐれも、みんなの見ている場所で、その作品について熱く語ったりするのは避けてほどほどに。「場合によっては、先に流れているヤバいウワサ話で、悪い印象を持っているかもしれない」ので気を付けましょう。
「これは一部の人の問題であって、自分たちとは関係ない」、確かに事実かもしれません。しかし、自分たちがそれら迷惑な人と同一視されたくないなら、模範的な行動を心がけましょう。一部にいる思い込みの激しい人々の印象は変えられなくても、その他の善意の人々の印象が良くなるだけで、だいぶ変わるかもしれません。


逆に地元住民は、「一部の迷惑な巡礼者」と、「真面目な巡礼者」を一緒に扱わないことです。本当の敵は、よそ者そのものではなくて、よそ者の中に紛れ込んでいる、一部の迷惑な人々ではないでしょうか。アニメがどうのこうのはわからないとしても、とにかく、自分たちの地元に関心を持って、遠くからはるばる足を運んできてくれたというだけで、「お客さん」です。誠実なお客さんは、むしろ自分たちの味方に付けてみてはいかがでしょう。ひょっとしたら、迷惑な行動をしている人たちを、一緒に注意してくれるようになるかもしれません。
それから、巡礼者たちは、その作品に対する熱意にあふれている事と、若者らしい気力にあふれている事とを理解する事です。自分たちが別の分野では、あるいは若い頃は、似たように熱く燃えていた事を思い出しましょう。

成功例もある

漫画やアニメの舞台となった地を訪問してくる「巡礼者」は、ただ冷遇されるばかりではないのを最後に付け加えておきます。サザエさんゲゲゲの鬼太郎のような有名なキャラクターを街のマスコットキャラクターにした例は幾つかあります。今のところまだ例外的であるものの、おたく向けの萌え系キャラクターも、意外や意外、町おこしに一役買ったことがあります。それは、備長炭の産地の和歌山県みなべ町の例です。「びんちょうタン」という、備長炭を頭に乗せたちっちゃい女の子の漫画がきっかけで、ほとんど無名だったみなべ町が、漫画・アニメファンの間では全国区で有名になり、キャラクターの看板目当てだけでなく、本当に備長炭に興味のある若者までをも引きつけたり、逆にみなべ町の住民も、おじいちゃん・おばあちゃんにまで「びんちょうタン」のキャラクターが愛されたりと、大きな成果を上げています。
うまくいけば、もしかしたら、あなたの住む街も同じように……ひょっとして……ね?

*1:一部のマナーの悪い観光客は、別におたくだけが悪いわけでも、「一般人は礼儀正しいのに、おたくはすごく迷惑」というわけでもありません。むしろ逆であることの方もしばしばあります。

*2:アニメファンが別のアニメファンを「おたくキモイ、死ね」と罵る、という事も、特にネット上で時々見掛けます。歪んだ優越感かもしれませんが。

*3:言うまでもなく、これは皮肉です。