黒歴史化している、パソコンが「ネクラな趣味」だった時代

 十年前*1にまだちっちゃい子供だった読者の方にはちょっと想像つかない事かもしれませんが、パソコンを趣味にしている事自体が「ネクラ」*2とか「おたく」と呼ばれていた時代が、かつて存在しました。
 仕事で使うのでもないのに、自分用のパソコンをわざわざ買うとか組み立てるとかして毎日のように使っている、それだけで「人間の友達がいないから、パソコンを友達にしている」なんてよく言われたものですし、特にパソコン通信掲示板とか電子メールなど、「生身の人間との付き合いを拒絶して、バーチャル世界に耽溺する」とも言われたものでした。
 これはちょうど今で言うなら、アニメが大好きで毎日のように見ている、フィギュアを集めている、美少女ゲームが大好き、メイド喫茶に行くのが好き、こういう連中とほとんど同列に見られていました。*3こういう人が今でも「人間の彼女ができないから、バーチャルな女の子を彼女の代用品にしている」と非難されるのと同じくらい、パソコンおたくは「人間の友達がいないから、パソコンを友達にしている」ことを非難されていたものでした。


 ですから、十年前の私にとって、仕事を持ち帰るサラリーマンかパソコンマニア以外のごく一般的な家庭に、パソコンが当たり前のように普及するなんて、想像もできない事でした。当時は週刊少年マガジンに、ヤンキー兄ちゃんがパソコン通信でいじめられっ子を励ますとか、パソコンのできる男の子が、好きな女の子の家に行って、Windows95をインストールしてあげるとか、そういう漫画も載っていた時代でしたが、そんなのは現実には実現しようのない絵空事にしか思えなかったものです。
 しかし、どんなにネクラな趣味だと陰であざけられようが、コンピュータ技術はきっと近い将来もっと必要とされる時が来る。そんな漠然とした気持ちは抱いていました。まさか、あの漫画みたいに、トッポいヤンキー兄ちゃんとか、ミーハーな普通の女子高生とかが、普通にパソコンを使う時代になるなんて、まさか思いもせずに……。


 十年以上前にはさんざんパソコンマニアを「ネクラ」とか「人間に相手にされないから機械とお友達になってる」とか言っていたくせに、今では「えっ、私が昔そんな事言いましたっけ?」とばかりに、技術を持ったパソコンマニアにすり寄って来て「サポート君」の役割を期待したり、下手すると当時のパソコンマニア以上にパソコンや携帯という“機械とお友達になって”いたり。ある意味滑稽です。でも、私は彼らに謝罪と賠償を求めるつもりはさらさら無いし、パソコンの便利さに気付いて有効活用してくれるようになった変化はうれしいから、まあ許しましょう。
 でも、何だか割り切れない部分もあるのです。「パソコンが好きって、そういうのは『おたく』とは違うんじゃないか? おたくってのは、アニメやゲームの少女に仮想恋愛をする人の事を指すんだろう」という、最近よく聞くようになった、何だか勘違いしてる意見を耳にすると、特にそう思います。パソコンを趣味にする事が高齢者を含め一般に認知されたのはうれしいけれど、人を「ネクラ」とか「おたく」と呼んで蔑む傾向自体が無くなったわけではないのですから。アニメを趣味にする事に関する一般人の目は、相変わらず十年前とほとんど変わっちゃいないのが、悲しいかな現実です。

*1:2006/10/23補足:この記事は平成元年〜1990年代半ばあたりの話です。それなのになぜ「十年前」と書いたかというと、十年前にちっちゃい子供だった人は、連続幼女殺人事件とオタクバッシングからWindows95とパソコンブームに至る、この期間(つまり十年くらい前が終点)の出来事をあまり詳しく知らないだろう、という意味です。

*2:2006/10/23補足:当時まだ「ネクラ」という言葉がまだ生き残っていたかどうかは覚えていないが、とにかく「暗い趣味」と呼ばれたのは確かでした。

*3:ただ、純粋なパソコン趣味は、“暗い趣味だが、いい年した男のくせにセーラームーンを喜んで見てるようなロリコン趣味と比べれば、まだマシな方”“趣味で終わるのはもったいないけど、仕事に活かせれば役に立つ”と世間では見られていました。