なぜおたく文化を一般人に説明するのか

おたく文化を知った上で非難する人なんて、どうせ知らなくても非難するものだ。


 このブログをお読みの皆さんは、今から十年前、パソコンをお持ちでしたか。パソコン通信やインターネットはお使いでしたか。
 恐らく半分くらいの方は、まだパソコンを持ったこともなく、インターネットも使った事がなかったのではないでしょうか。残りの半分はほぼ、パソコンを趣味にしていたマニアか、仕事で使っていたかのどちらかでしょう。
 そしてその頃、「コンピュータウイルス」とか「ネット犯罪」という言葉を聞いて、「パソコン通信やインターネットは恐いところ」というような、何だか得体の知れない恐怖感を感じていた人も多いのではないでしょうか。「パソコンを使っている人は人とのコミュニケーションが苦手だから機械と友達になっていてキモい」と思っていた人も。
 しかし今、そんな不安を抱いていた多くの人も、パソコンやインターネットを実際に使うようになって、パソコンやインターネットそのものが悪いのではない事にようやく気付いたことと思います。ネット犯罪があっても「だからインターネットは犯罪者の巣窟だ」みたいな事は言われなくなってきました。悪いのはインターネットそのものではなく、インターネットの一部で行われていることである事が知られてきたのです。また最近は架空請求ファイル交換ソフトを通じて感染を広める暴露ウイルスが猛威を振るっていますが、「架空請求の危険があるから」「個人情報が漏れるといけないから」パソコンやインターネットを使うのは絶対止めなさい、と言う人は、今や少数派もいいところです。とは言え、「だからウィニーは恐い」という不正確な誤解も蔓延していますが、それでも昔に比べればまだマシになりました。


 本題に入りましょう。「電車男」と秋葉原再開発の影響で、去年から今年にかけて一般人が「おでん缶」や「メイド喫茶」目当てに秋葉原に来るようになりました。しかし、この現象をあまり快く思っていないマニアの意見を時々耳にします。「秋葉原は俺たちの聖地だ。一般人が土足で入ってきて荒らすような場所ではない」とか「おでん缶の自販機前に物珍しそうにぶぁぁぁぁあって集まってる様子が見苦しい」とか「メイド喫茶は知る人ぞ知る俺たちのオアシスだったのに、一時間待ちとかになって全然入れなくなった、どうしてくれる」とか「一般人の目に二次元ロリコンコンテンツの実態を見せたら余計反対されて、俺たちの趣味がやりづらくなる」とか「所詮、一般人はおたくという“珍獣”を観察するための興味本位で来ているんだろう」とか……。
 しかし私は思います。この「アキバブーム」を、逆にチャンスととらえることはできないものでしょうか。「一般人はおたく文化を曲解する」、なるほどある意味真実かもしれません。しかし、いつまでおたく文化を一般人にとって「よくわからないけど、恐くて得体の知れない存在」のままでいさせるのですか。おたく文化を一般人社会に正しく説明しなければ、誰がおたく文化を説明するのですか。それは、おたく文化の闇を針小棒大に取り上げてバッシングする人達や、それを興味本位に取り上げる人達であることは、平成の世が始まって以来、歴史が証明してきたではありませんか。


 「おたく文化の実情が世間に知れたら、余計バッシングされる」、なるほど、闇の部分を詳しく知ってバッシングする人は出るでしょう。しかし、それを世間が詳しく知らなければ非難されずに済むなんて保証はどこにもありません。おたく文化を知った上で非難する人なんて、どうせ知らなくても非難するものです。むしろ闇の部分だけを聞きかじりの知識で判断して、もっとひどく非難していたでしょう。どうせ同じ事なら、おたく文化にかかわっている人が率先して「それ以外の人」に対する説明役に回った方がどんなに良いか知れません。
 それに、おたく文化の実情が世間に知れる事で、今よりも余計に闇の部分を知られたからといって、即、余計に反対されるというのも、必ずしも真実ではないでしょう。最初に挙げたパソコンの例を思い出してください。コンピュータ犯罪は十年前より今の方が深刻ですが、十年前の方がよっぽどパソコンマニアが白い目で見られていました。実際にコンピュータを使った事のない人にとって、その「自分の知らない得体の知れない世界で恐ろしい犯罪が起こっている」事に、とにかく漠然とした不安感や恐怖感を感じるのです。しかし、そんな人も実際にコンピュータを使うようになると、本当は何が危険なのか、そしてそれさえ気を付けていれば安全にインターネットを使える事が、身をもってわかるのです。


 これを萌え系コンテンツに当てはめて考えてみましょう。「おたくはロリコンコンテンツの愛好家が多いので、犯罪的で危険だ」という漠然とした不安感や恐怖感を持っている人が世間には多いでしょう。しかし、実情を知って誠実に判断した人は、そうやってひとくくりに悪いと決め付けるべきでない事にすぐ気付くでしょう。
 この「ロリコン」とは、本当に少女愛的な傾向の作品という意味ではなくて、単に可愛い女の子の出てくる漫画やアニメやゲームを漠然と指している事が往々にしてあるものです。しかし「犯罪的」とは大袈裟でしょう。それに、そういう作品が人気を博しているのには、ちゃんと理由があります。
 まず、単に可愛いものが好きなファン層がいます。広告業界では「3B」つまり「美女(Beauty)」「子供(Baby)」「動物(Beast)」を使うと目を惹き付ける、とよく言われていますが、これは一般人だけでなくおたくにも言えることなのです*1。その効果を狙って小さな女の子を登場させることが多いのかもしれません。
 次に、少女漫画の男性ファンという層もあります。男の子が少女漫画を読むようになる背景には、少年漫画の一部に見られる、暴力と性を強調する傾向への反撥が、往々にしてあるものですし、少年漫画にはあまり見られない、登場人物の繊細な心の動きを抒情的に扱った作品に興味を持ったり、女きょうだいや級友の女子の読んでいる本を借りて興味を持ったりといったきっかけの事もあります。こういうファン層は、萌え系コンテンツの中でも、抒情的な作品が好きなものです。
 最後に、美少女ヒロインに恋するファン層。ちょうどラブソングが流行歌の大半を占めていたり、ドラマや映画でも恋愛をテーマにしたものが多かったりするのと同じで、おたく向けコンテンツでも最近は「恋愛」をテーマにした作品が多くなってきました。何も犯罪を煽るための美少女キャラじゃあ、ありません。ちょうど恋愛を描いたドラマや映画を見て、そのヒロインに憧れるような、そんな初恋みたいな純朴な感情だったり、「学生時代自分はこういう恋愛をしてみたかった」というノスタルジアである事も、よくあることです。多くは平和的な恋愛を扱った作品であるものの、相手を陵辱するような内容や犯罪めいた内容のものも一部にないわけではありません。しかし、これは美少女ヒロインに恋するファン層の中の、さらにアダルトコンテンツが好きなファン層の中にあってさえ、嫌いだとか理解できないとか言う人が少なくありません。
 そもそも、おたくにも萌えアニメが嫌いな人がいますし、好きではあってもヒロインを「娘」や「妹」のように見る人と、「恋人」のように見る人と、それから「自分の投影」のように見る人*2と、いろんな立場の人がいるものです。


 このように、いろんな立場の人々を広く観察してもらい、一口におたくと言っても、いろんな考えの人がいることを伝えて、「この部分はおたく文化の問題点だけど、ここの部分は理解はできて安心した」という具合に、単なる漠然とした不安感を一掃して欲しい。「なぜおたく文化を一般人に説明するのか」と問われたら、私はこう答えます。

*1:ネコミミ美少女というのは、「女性的な側面」「子供っぽい側面」「動物っぽい側面」の「3B」をすべて満たすので、おたくに人気が高いのでは、と私は考えます。

*2:私はこの立場で見る事が多いように思います。