「ニート」とは元々、求職活動中の者も含まれる

「ニート」って言うな! (光文社新書)

「ニート」って言うな! (光文社新書)


 この本を読んで驚いた。英国で「ニート」とは、元々は求職中の失業者も含まれていたのだが、日本にその言葉が輸入された時に、なぜかそれが除外され、「働く気のない若者」というイメージが流布されていったという。
 確かに、NEETとはNot currently engaged in Employment, Education or Trainingの略であるが、Trainingを「職業訓練」の意味で正しく説明する代わりに「求職活動」にすり替えて、「求職活動していない、働く気のなく自堕落な生活を送るダメな若者」というレッテルを貼ることが流行している気がする。


NEET - Wikipedia
 Wikipedia英語版の定義も見てみよう。

In the United Kingdom
The NEET classification is defined by targets laid out by the DfES in the central government Transforming Youth Work document published in 2000. The classification is specifically redefined in other local government papers, such as "respondents who were out of work or looking for a job, looking after children or family members, on unpaid holiday or travelling, sick or disabled, doing voluntary work or engaged in another, unspecified, activity" for example.

As of 2004, 7.7% of the age group was classified as NEET[1].

 英国では、場合によっては「離職中・求職中・育児又は家族の世話・無給休暇中・病気や障害・ボランティア活動」までをNEETの例として挙げるほどであって、そうなると「働く気のない若者」というイメージは日本だけのものであることがわかる。


 さて、日本でニートの定義から「求職中の失業者」を意図的に外したことにより、誰が得をしたのだろうか。それは政・官・財である。現在ニートが多い大きな原因の一つは、不景気である。元々の意味に含まれる「求職中の失業者」も増えるし、就職しようにも仕事がなかなか無かったり、希望する職種が無かったりで失望してしまうために、やる気を失ってしまう、日本独自の意味での「ニート」も増えるだろう。
 ところが、英国のようにニートを貧困などの社会構造の問題ととらえる代わりに、若者のやる気の問題にすり替えることで、たとえば「なぜ企業は不景気を口実に若者の新規採用をしないのか」という問題が覆い隠されてしまう。「僕(企業)のせいじゃないもん、若者のやる気がないのがいけないんだもん」と、責任転嫁できるのだ。もちろんこれは政治家や官僚についても同様である。
 不景気には人々の不満は高まる。その不満をどこにぶつけさせるか。豚小屋の豚たちは、同じ小屋にいる一番弱い豚をいじめて、狭い小屋でのストレスを解消するそうだ。この不景気の時代に「いじめられ豚」の役割を押しつけられたのは、“大人社会の弱者”である若者だ。バブル経済破綻や年金運用失敗の非難の矛先を、その真の原因を作り出した人から逸らし、代わりにに責任をなすり付けてスケープゴートにされてしまった、かわいそうな存在である。


 若者への言いがかりと責任のなすり付けは、「ニート」問題にとどまらない。「少子化」問題も同じである。少子化問題とは本来、日本の人口がこれから際限なく増え続けていくことを前提にした「ネズミ講型」の社会構造に欠陥があり、ネズミ講マルチ商法と同じくいつか破綻する。そこがたとえば「年金はネズミ講だ」などと揶揄される所以(ゆえん)である。
 ところが、年金保険料のように自分たちに関係あるもの、自分たちが払わなくてはいけないものとなると「ネズミ講」だ何だと非難し「年金のシステムに欠陥がある」と言ったり、「払い損だ、そんなの払うなんて金をドブに捨てるようなものだ」とわざわざ若者に忠告したりするのに、少子化問題となるとシステムの欠陥には完全に目をつぶり、途端に手の平を返したように「若者の結婚意欲がないのが原因だ」と若者のせいにしたり、「結婚しない若者は社会に協力しない、自己中の非国民だ」と言わんばかりの暴言を当然のように吐いたり、「とりあえず彼女くらい作ってみたら」(とりあえず、で付き合わされる彼女の身になってみろよ)と“親切な忠告”をしてくれるものだ(この現象を「年金左派・少子化右派」と名付けたい)。これはおかしいと私は思う。


 「ニート」問題にしろ、「少子化」問題にしろ、本当の意味で若者の福祉を考えた上での問題提起なら、聞く価値があろう。しかし、それらの問題をダシにした若者いじめや責任転嫁や偏ったイデオロギーの流布を私は許さない。残念ながら、それがまかり通ってしまっているのが現在の日本である。


参考リンク
「ニート」:指示内容の齟齬 その1