「安くなる」の為に払う代償

 今はほとんど来なくなったが、以前うちに「省電器」のセールスの電話が掛かってきた事がある。何でも、それを付けると電気代が何割だか節約になるのだという。

 そんな話を聞いて、「これはお得な買い物だ」とすぐ飛び付くのは、悪い意味での衝動買いである。電気代が節約になるどころか、ほんのチョコッとしか節約にならず、なお悪い事に一部の電気製品がうまく動かなくなる。残るのはその機械代の何十万円分のローン、ということになる。

 さて、私がそのセールス電話を断った理由はというと、パソコンマニア的な理由である。「省電器」とは、電圧を98Vとか95Vとか、大方の電気製品が動くギリギリの範囲で下げる機械である。しかし、電圧が低いとパソコンの動作不安定の原因になりやすい。多くのデスクトップパソコンには外国製の電源ユニットが搭載されているが、これは外国の電圧に合わせて110Vを前提に設計されており、日本の100Vは10V低いけれど、大抵はギリギリ動く範囲である。同じコンセントに沢山の機器を付けていたりしてもっと電圧が下がると、ただでさえギリギリまで低いのだから、どうなるかは自ずと明らかだろう。ちょっとした電圧の変動で突然パソコンがリセットされ再起動する、不安定な状態になってしまう。

 だから私の場合、可能なら日本の100V電源にちゃんと対応した電源ユニットをパソコンに積むことにし、さらにメインマシンにはUPS(無停電電源装置)を付けて、突然の電圧低下に備えている程である。それを、事もあろうに、そういう状況を人為的に作り出すなんて、考えただけでも恐ろしいくらいだ。

 そもそも、電圧を低くして節電できるのは、白熱電球くらいのものであるが、副作用として少し暗くなる。こんな高い機械を導入するよりも、白熱電球を全部ワット数の少ない電球に交換した方が、余程、投資金額も電気代も節約になる。モーターを使う機器には効果がないだけでなく、逆に電流が増えて寿命を縮める事になる。先に挙げたパソコンのように、電圧を下げた事で動作が不安定になる機器もある。

 最近ようやく勧誘電話が少なくなってきたが、一時期、「電話料金が数百円安くなるサービス」のセールス電話が週一、二回は掛かってきた時期があった。これは「直収電話サービス」と言って、NTTの交換機自体を迂回して独自の回線で電話を接続することで、電話の基本使用料を安くする、という触れ込みのサービスである。

 しかし、このサービスの隠れたデメリットもある。まず、インターネットを使用している人にとって深刻な問題としては、0570で始まるアクセスポイント電話番号や、フレッツADSLでの接続ができない。特にADSLは直収電話サービスを提供している会社の関連プロバイダ(おとくラインならYahoo!BBメタルプラスならDION)しか使えなくなってしまう。プロバイダの囲い込みがされるという事は、つまり、これまで使い続けてきたプロバイダから業者指定の別のプロバイダに乗り換える必要が出てくるし、その後により安いプロバイダが出てきても、おいそれと簡単に乗り換えることが出来なくなるという事である。それに、月々100円くらいの工事費が5年間請求される事や、電話帳も有料になってしまう事までは親切に教えてくれなかったりするが、こういう隠れた費用をプラスすると、営業マンの言うほどお得になるのか少々疑問に思えてくる。

 時々、「安くなる」という話に裏がある事がある。“隠れた費用や手間や時間”がかかるかどうか、きちんと調べる必要がある。それに、安くなるとしても信用の確かでないものは、あわてて導入すべきではない、というのが鉄則である。こういう時には、安定動作と安心とは買ってでも手に入れるものだ。