“「メイド喫茶」の大半は風営法に抵触する”説は真実を半分しか伝えていない

 ゲームセンターに明日はあるの?と題するブログがある。ここの記事で最近興味深いと思ったのが、テレビで「メイド喫茶」が紹介されると決まって出てくるメイドさんが客の近くにはべって談笑している」様子や、「メイドさんと客がゲームしている様子」、あれは風営法の第2号営業許可(昔のカフェー、今のバーやスナックキャバクラ等が該当)を取っていないと、風営法に抵触するらしいということ。
※2013/06/14修正:バーやスナックは、カウンター越しに接客するだけであれば2号営業の許可は必ずしも必要ではないようです。ただし、たとえば客の横に女の子があてがわれて接待するような場合であれば2号営業の許可が必要となります。

風俗営業法第1条2項に定められた「待合、料理店、カフェーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」の定義には「特定所数の客の近くにはべり、継続して、談笑の相手となったり、酒等の飲食物を提供したりする行為は接待に当たる」としています。

(中略)

ところがアキバにある「メイド喫茶」の大半はこれらの接待業務を無許可で、しかも店によっては未成年の女の子にやらせているんですよ。いつパクられてもおかしく無いっすよ。



メイド喫茶に明日はあるの?(その2)

 結論から先に言うなら、このブログ筆者の言ってることの半分以上は正しい。しかし、その真実の隙間に、巧妙な嘘を隠して読者をミスリードしようとしていることに気付いて欲しい。

 まずは正しい部分から説明しよう。「メイド喫茶」はバーやスナックやキャバレーキャバレーやキャバクラではなく、法的には通常の喫茶店である。だから、通常の喫茶店としての範囲を逸脱するサービスを提供する事はできない。制服がメイド服やエプロンドレスなのは昔の喫茶店でも時々あった事だし問題ない。一部の店の「お帰りなさいご主人様」という挨拶は、奇妙ではあるけど、特に制限する法律も無い。

 しかし、「メイド喫茶」の店員が、もし通常の喫茶店の接客業務の範囲を超えて、特定の客の近くにはべって談笑したりお酌したりするならば、確かに法律に抵触する。

 誤解を防ぐ為に付け加えておくが、テレビに時々出てくる、客の近くにはべって談笑しているメイドさんなんて、半分以上は演出(またの名を「やらせ」)だ。私は例のテレビによく出る店も含め、秋葉原のあちこちのメイド喫茶の様子を実際に見てきたが、こんなにメイド喫茶が流行っては、メイドさんも大忙し、客とゆっくり話してる暇なんてあまり無いのが現状である。もちろん、仕事が少ない時は常連客と話している様子を時々目にするものの、長くて数分の、しかも立ち話である。スナックやキャバレーみたいなのが普通の光景だと誤解されても困るので、一応付け加えておく。

 なお、この法律の「接待」とは具体的に何を指すのかの運用基準が、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準の一部改正について(PDF)としてまとめられている。

3 接待の判断基準



(1)談笑・お酌等

特定少数の客の近くにはべり、継続して、談笑の相手となったり、酒等の飲食物を提供したりする行為は接待に当たる。

これに対して、お酌をしたり水割りを作るが速やかにその場を立ち去る行為、客の後方で待機し、又はカウンター内で単に客の注文に応じて酒類等を提供するだけの行為及びこれらに付随して社交儀礼上の挨拶を交わしたり、若干の世間話をしたりする程度の行為は、接待に当たらない。



(2)踊り等

特定少数の客に対して、専らその客の用に供している客室又は客室内の区画された場所において、歌舞音曲、ダンス、ショウ等を見せ、又は聞かせる行為は接待に当たる。

これに対して、ホテルのディナーショウのように不特定多数の客に対し、同時に、踊り、ダンス、ショウ等を見せ、又は歌若しくは楽器の演奏を聞かせる行為は、接待には当たらない。



(3)歌唱等

特定少数の客の近くにはべり、その客に対し歌うことを勧奨し、若しくはその客の歌に手拍子をとり、拍手をし、若しくはほめはやす行為又は客と一緒に歌う行為は、接待に当たる。

これに対して、客の近くに位置せず、不特定の客に対し歌うことを勧奨し、又は不特定の客の歌に対し拍手をし、若しくはほめはやす行為、不特定の客からカラオケの準備の依頼を受ける行為又は歌の伴奏のため楽器を演奏する行為等は、接待には当たらない。



(4)遊戯等

客とともに、遊戯、ゲーム、競技等を行う行為は、接待に当たる。これに対して、客一人で又は客同士で、遊戯、ゲーム、競技等を行わせる行為は、直ちに接待に当たるとはいえない。



(5)その他

客と身体を密着させたり、手を握る等客の身体に接触する行為は、接待に当たる。ただし、社交儀礼上の握手、酔客の介抱のため必要な限度で接触する等の行為は、接待に当たらない。

また、客の口許まで飲食物を差出し、客に飲食させる行為も接待に当たる。

これに対して、単に飲食物を運搬し、又は食器を片付ける行為、客の荷物、コート等を預かる行為等は、接待に当たらない。



(赤字、緑字は筆者[押井徳馬]による)

 運用基準のうち、特にメイド喫茶に関係ある事柄を太字にしたが、赤が基準に抵触する可能性のある事柄、緑が大丈夫と思われる事柄である。

 「特定少数の客の近くにはべり、継続して」かどうかが大きなポイントであるが、前に述べたように、これに抵触する店は、私の知る限りでは、今のところほとんど無いと思われる。少なくとも、私はこんなサービスを受けた事などただの一度だってありゃしない。もしかしたら、店によっては店員と常連さんがデレデレしてる事もないわけではないのかもしれないが(ただ、私はそんな様子を見た事はほとんど無い)、それでも、接待は店の業務では無い。あったとしても、建前抜きで、店の業務を越えた店員の自発的な行動に過ぎないし、普通の客はそんな扱いを受けることはまず無い。

 あとは、追加料金を払うとメイドさんとゲームできるサービスがあったり、「食べ物を一口目だけあ〜んして食べさせる」サービスを期日を限って行っていたりといった店もあるようで、これは法律に抵触する可能性があるが、これは飽くまでもごく一部の店の話であり、全体からすれば少数派である。私が気になるのが、最近できたごく一部の店では店外デートを(店員の自由意思でも薦められたものでは無いが、事も有ろうに)店の提供するサービスとして行っているとの話を聞くが、これは問題だ。法律の網をくぐった脱法サービスだろう。メイドさんは飽くまでもお給仕が仕事なのだから、行き過ぎたお色気路線は感心できない。少なくとも、こういう、娼婦みたいな真似をして評判を落とすことだけは止めてもらいたいと思うのは私だけでないはずだ。*1

 私はアンティークとかレトロと名の付くものが大好きで、だから19世紀の英国のメイドさん風の服装が21世紀の今に復活して現役で見られる、という理由でメイド喫茶に興味を持った人間である(似たような事で、日本料理店は厨房やお給仕に和服の店員がいる店が好きだし、カレー屋も本物のインド人のいる店が好きだ)。「ご主人様」になりたいという気持ちがあるわけでも、メイドさんにデレデレしたいという妄想があるわけでもない。それゆえ、私は昨今の一部のメイド喫茶に見られるような、昔のメイドさんというものを誤り伝えかねない?お色気路線にはほとほと辟易しており、「こういうサービスはやり過ぎではないか」と問題提起する事は是非必要と考える。そして業界の自主規制にせよ、それがダメなら法的規制にせよ、何らかの歯止めが必要だと思う。そうでないと、今は「大半」でないかもしれないが、将来本当に「大半」が事実上「違法・脱法お色気カフェー」になってしまう危険性がある。お色気路線を止めろと言う権利は私には無いが、やるなら2号営業許可をちゃんと取って、真面目な喫茶店とはちゃんと棲み分けて欲しい。もし一部の店のそういう違法・脱法営業路線が続くなら、業界自身の首を絞めるばかりでなく、真面目な普通の喫茶店的に営業してきた他の老舗店の看板にも泥を塗って迷惑をかける事になりかねない。

 さて、そろそろ例のブログの「嘘」の話に入ることにしよう。といっても半分くらいは既に説明してしまったが、例のブログは「大半」と「一部」が逆転している。「一部の店で行われていたり、その一部の店でもたまにしか見られないような事柄を、さも大半の店で普通に行われているかのように」嘘をついて読者をミスリードしている。それに、例の記事には「利幅の大きいソフトドリンクを使い捨ての容器で出したり」する店の話が登場したが、こんな店はテレビで有名なあの一店だけ(今でもそうかは不明)で、普通のグラスやティーカップで出す店が大半であるし、そもそも使い捨て容器が経費削減になるかどうかだって怪しい。もしかしたら筆者は、その一番極端な一店だけしか行かずに(あるいはもしかしたらテレビで見ただけという可能性も?)、「メイド喫茶なんて大半がここと似たようなものだ」と思い込んでいるのではないか。だとしたらリサーチ不足の知ったかぶりもいいところだ。ニンジャ映画をちょっと見て「日本にはニンジャがたくさんいて、日本人はみんなカラテができる」とか日本を知った気になるのと同じくらい恥ずかしい事だ。

 「アキバの大半のメイド喫茶風営法に抵触する営業をしている」と嘘を書かれて誰が一番傷つくかというと、そこで働いている店員さんたちである、という事を、そのブログ筆者は忘れていやしないか。今までは客の大半は「可愛いメイド服を見てるだけで満足」というおたくだったが、今ではアキバに一般人がどんどん進出し、テレビでもメイド喫茶(大半は例の特定の店)の特集が流れる事が時々ある。メイドさんが客にデレデレするようなサービスを当然受けられるなどと誤解する人々をただでさえマスコミが作り出しているのに、その誤解を正すどころか再生産するなら、そういう過剰なサービスをどの店でも当然の事のように要求する非常識な客を作り出すことになりはしまいか。

 さて、例のブログはもう一つ問題ではないかと私が思う事があって、それは「萌え」という言葉についてである。筆者は別の記事において萌え=エロと一方的に決め付けてしまっている。(『「萌えはキャラクターを愛でる感情で〜」などと寝言ほざいてる連中』とか、『いい年をしてアニメを見続ける、またいわゆる「萌え」と言い繕い幼女偏愛に耽溺する青少年が世間にとって奇異の眼差しで見られることは、ある意味仕方の無いことでしょう。』などと過去に発言している)
 こういうのは頭の固いエロオヤジ的発想だと言うのは言い過ぎだろうか。確かに、すけべな感情を表す語としてその言葉を用いている人も少なくないのは事実だ。筆者の指摘通り、自分の劣情を言い繕う口実にその語を用いる人も中にはいるかもしれない。しかし、それが全てだろうか。私はこれまで色々な主義のアニメファンと接してきており、様々な意見を聞いているが、私は決してそうは思えない。「愛」という言葉がエロースだけでなくアガペーも含むのと同じく、「萌え」の指し示す意味の範囲もまた広いと私は考える。そもそも、男は可愛いキャラを見たら、「きんもーっ☆」と思うか、ハァハァ息を荒げるかといった「0か1か」で選ばねばならないなんて決まりなど無い。いろんな反応、いろんな主義があっておかしくない。

 まあとにかく、こういう問題が論争になるなんて、やっぱりフジヤマ・ゲイシャの国らしいと私は個人的に思う。「芸者は芸を売るか、色を売るか」の論争は昔からあるし、一部では芸者=大半が高級なコールガールであるかのような誤解も浸透している。確かに、中には一部、客といかがわしい関係を持つような芸者さんもいないわけではないものの、芸者がそのような生活に身を落とす必要など無い。そうではなくて、仕事に誇りを持ち、真面目に宴会芸を披露する芸者さんも大勢いる。メイド喫茶メイドさんは芸者とはちょっと違うけど、即物的に色気を求める人に色を売るのが商売ではなくて、もっと奥ゆかしい楽しみ方というか、心地よい雰囲気の中で食事したい風流人のためにあるという点では少し共通する部分があるかもしれない。

*1:2007/01/05補足:これは「デート」と銘打っていながらも、実際にはお客さんに対し観光ガイドさん的に二人のメイドさんが付いてお散歩をするというのが実態らしい、という事を後で知りました。風紀に注意を払った上での、健全な観光ガイドさん的なサービスであれば私も異存ありません。ただ、私は実際にそのサービスを試してみた事は一度もないので、本当にそうなのかは不明です。こういうサービスに興味ある方であっても、あらかじめ内容を確認なさる事をおすすめします。また、この種のサービスを行っている店で働くことを考えている方は、本当に健全なサービスなのか、それともいかがわしいサービスなのかを必ず事前に確認し、またその店の評判や可能なら働いた経験のある人の意見も参考にし、十分気を付けてください。