「健全志向宣言」

 最近、「萌え」という言葉の定義で論争が起こる事が多いように感じる。大雑把に分類するなら、「萌えとは仔猫を可愛がるような、純粋な愛着の気持ち」派と、「萌えとは性的欲望の一形態」派の二つの派閥に分かれているようだ。最近、有名な漫画家である赤松健が「萌え=男性の母性愛」説を提唱し始めているらしいが、これはどちらかというと前者に分類されるだろうか。

 私はというと、「愛」という言葉が「博愛」「家族愛」「友愛」「男女の愛」など幅広い意味を表すのと同じく、「萌え」も先の両方の意味も含め幅広い意味を持つ、という解釈である。この論題は話すと長くなるので、いずれ「週末アキバ系」セクションにまとめる予定であるが、しかしこのように派閥が分かれているということは、興味深いことである。これは、男の行動の動機を何でもかんでも性的なものに結びつけようとする傾向と、その傾向への反撥、その二者の争いとも言えよう。

 私自身がこれまで知り合ってきた漫画マニアやアニメマニアは、私が人を選んできたという理由も一つあるかもしれないが、健全志向のマニア、つまりウェブサイトにエッチな絵を一切描かない、同人誌も健全な作品として作る、そんな人の方が多かった。中には自分のお気に入りの作品をエッチな絵で描いて“汚す”事を声高に非難する人もいて、時々論争になることがあるほどだった。まあそれは極端な例として、こういう「健全志向」という立場の人も実は結構大勢居るという事実を知っていたし、自分もそういうマニアになることを理想として追い求めてきたように思う。

 過去に何度か書いているが、1996年頃から、こういう健全志向の少女漫画やイラストの絵描きさんたちが集まって、「白色りぼんの会」を結成していた。この運動を通じて、健全志向の作家の存在がだいぶ知られるようになった功績は大きい。しかし残念なことに、この会は2002年半ば頃に自然消滅してしまい、今は存在しない。

 当時私は「白色りぼんCLUB」会員だったが、「白色りぼん」バナーがデッドリンクになっていることに気付いた時、本当に勿体ないと思いながらも、結局はバナーを外すことにした。もちろん、リンクだけ解除してバナーだけ残してもよかったのだが、白いリボンのデザインがあまり綺麗で、これまでも「どうすれば会員になれるのか」とよく尋ねられたり、会員でないのにコピーして無断使用しているケースも時々見かけたものだったから、無用なトラブルを避けるためにも外したのだった。

 その後、「健全志向の絵描きさんの同盟」とか「健全志向のアニメファンの同盟」とかが他にないかどうか探してみたのだけれど、どうも私の思っているものと違う。「聖マリみて同盟」のように特定作品に限定した同盟だったり、女性のアニメファンには男の同性愛ネタが苦手な人も結構多いと見えて、健全サイトの同盟を謳ったものは多けれど、「男性カップルはダメだけど男女カップルなら性表現もOK」みたいな同盟だったり。

 そんなわけで、他になかったから「白色りぼんの会」を自分で作ってしまった先駆者の例に倣って、私も結局自分で健全志向宣言と銘打ったキャンペーンを始めることにした。健全志向の漫画/アニメ関連サイトを運営していらっしゃる方は、是非一度目を通していただきたい。

 私が思い返すことには、白色りぼんの会の運営者も端から見る限り、どうやら大変だったように思う。入会は審査制だったので、たとえ18禁でなくともお色気路線の画風であまり健全志向と言えない絵描きさんは入会をお断りされたのだが、その事でモメた事もあったのを思い出す。私が審査制を止めて自己申告制にしたのは、この例を見ていたり、もし「通るか通らないか微妙な線のイラストで運営者を困らせて、基準を下げようとする試み」をする人が出てくるなら、自分自身審査が嫌になってしまうだろうからである。それに、漫画/アニメマニアの間では、健全とはどんな作品かに関する大まかな暗黙の了解は既にあることだし、私自身のものさしで他人のサイトを測るよりも、サイト運営者自身の正直な判断を尊重したい、というのが私の考えである。