おたく客と家族客が共存共栄する中野ブロードウェイ

 中野ブロードウェイはすごい。すご過ぎる。これまで存在を知らなかったことが大いに悔やまれるくらいすごい。

 何たって、おたくなヴィンテージアイテムの店が迷宮のようなビル内にずらりと並んでる。昔の漫画に、昔のアニメのレコードやCDやDVDに、怪獣のソフビ人形にノベルティグッズに、とにかく見ているだけで飽きない。地元にある「千葉中央鑑定団」という少々マニアな雰囲気のリサイクルショップが好きな私には、まさに楽園のような場所である。

 とは言っても、店舗部分である地階から四階すべてがおたくな店で占められているわけではない(注:五階から上は住居)。スーパーもあれば、食堂や昔ながらの喫茶店もあれば、婦人服の店もある。四階はおたくな店中心で、一階と地下は普通の店中心。上の階に行くに従って、おたくな店の占める比率がクサビ状に次第に高くなっていくといった具合だ。

 そして、普段秋葉原というおたく街の風景にすっかり慣れっこになってしまった私にとって、当初奇妙に思えた事があった。これが今回のタイトルである「おたく客と家族客の共存共栄」である。私も含めたおたく客と、幼稚園から小学生くらいの息子や娘を連れた父母が、二階や三階のヴィンテージ玩具屋の同じフロアで、同じように陳列された商品を眺めている。秋葉原では間違って入ってしまった客を除けば、アニメショップやゲームショップやフィギュアショップに家族連れが来ることなんて、滅多にないが、中野ブロードウェイではそうではない。これは新しい発見であった。

 なぜそれが可能なのか。私が思うに、一番の理由は「主婦層にも用のある場所」だからであろう。食料品店に化粧品店に婦人服の店。要するに普通のショッピングセンターと同じである。だけどそういう一般的なテナントに交じって、すぐ一件隣にはおたくな店も存在しているのだ。子供連れで買い物に出かけたら、主婦は食料品や婦人服などを買って、子供が「おもちゃを見たい」と言ったら上のおもちゃ屋のある階に連れて行く。そこには今の子供が楽しめる最近の新品を扱った店もあり、昔のヴィンテージアイテムを扱った店もあり、後者は父親や母親の世代にとって懐かしくて、「これ、子供の頃よく見てたなぁ」と、つい見入ってしまうものだ。もちろんマニアにとっても垂涎の品である事は間違いない。

 百聞は一見にしかず。この光景は、“おたくは一般人にとことんまで毛嫌いされていて、共存共栄なんて夢のまた夢”という私の旧来の常識を一気に崩しにかかるために、私の目の前に実際の証拠として突きつけられたものであった。そして私は、2005/02/22-03/13に東京都写真美術館で「おたく:人格=空間=都市」という展覧会が開かれた時の事をふと思い出した。私の観察していた限りでは、一般人の来場者は美少女系作品の展示を「わからん!」という目で見ていたが、一方で1970年の万博に関する展示を懐かし気に見ていたり、レンタルショーケースのうち一般受けしそうな漫画やアニメのフィギュアに限っては、「これ昔やってたね!」と、また懐かしそうに話し合っていたりと一番人気だったものである。

 つまり、一般人だって、自分が子供の頃に見ていた、自分の守備範囲の漫画やアニメなら、今でも懐かしい、今でも好きだという人は結構多いのではないか(特にテレビ東京の「なんでも鑑定団」の影響で、昔の漫画・アニメ・特撮系のヴィンテージアイテムについては、今や多くの一般人もそれらが「ちゃんとゲンナマに換算できる価値を持っている」ことをちゃんと知っているほどだ)。そして、ここらへんの共通理解をもとにすれば、とかく対立しがちなおたくと一般人の間の相互理解も、必ずしも夢ではないのかもしれないというかすかな希望を胸に抱きながら、この新たに見つけた場所を後にした。