「負け犬」って呼び方、ひどくありませんか

 「オールドミス」という言葉は半ば死語で、今では未婚のまま30代になってしまった女性は「負け犬」と呼ばれてしまうそうだ。知らないうちにそれは、テレビでも何度も何度も流れる有名な表現になってしまった。

 しかし、この呼び方は未婚女性に対するひどい侮辱ではないだろうか。少なくとも私はこんな使い方などしたくない。

 そもそも、女は20代までに結婚できたら勝ち組で、結婚できなければ負け組という前提からして間違っている。確かに、良い旦那さんと結婚できること程幸せはないと思う人は多いだろう。家族とは日本国家を支える単位であり、後の世代を育成し、また良き伝統を後の世代に伝えていくという、国の維持発展に欠かせぬ役割を持っている――最後は戦前の修身教科書の受け売りだが、そう書かなければこの意見に「うっかり」同意してしまう人も多いだろう。

 しかし、結婚できればそれで終わり、必ずハッピーエンドと言うのは大間違いであり、それは結婚したものの離婚してしまうカップルも多いことからわかる。また、赤ん坊が何ヶ月になれば這い、何ヶ月になれば歩くかに個人差があることからわかるように、人もその人生も一人一人違うのだから、結婚を意識し始める時期の早い遅いくらい個人差があって当然である。そもそも誰もが結婚を望んでいると考えるのは間違いで、結婚するのが嫌いな人とか、自分の信念ゆえ、つまり独身によって得られるものの方が結婚によって得られるものより大きいのであえて結婚しない人も中にはいるだろう。そういう人に無理に圧力を掛けて結婚させたところで、まるで昔の「親が決めた許嫁(いいなづけ)」と同じようなものだから、愛情がわかずに不幸な結婚に終わってしまう可能性も十分考えられる(もっとも、必ずしもそうとは限らないのが人生の不思議なところである)。

 もうすぐ30歳になりそうな未婚女性に「早く結婚しろ、負け犬になるな」と発破を掛ける人は多いが、本人は小さな親切のつもりでも、言われた当人にとっては大きなお世話であることが多い。確かに「結婚しないなんて勿体ない」と思って余計なお節介を焼く気持ちは十分わかるが、最終的には結婚するしないとか、誰と結婚するかは、日本国憲法にもある通り、個人の問題である。

 私が思うに、30代で未婚なんて本当の「負け犬」じゃない。30代未婚女性を「負け犬」と侮蔑する圧力に負ける方が、そんな圧力に惑わされてドタバタ焦る方が、よっぽど負け犬だ。いや、そんなのはまだ負け犬のうちに入らない。30代未婚女性をおおらかな気持ちで受け入れることが出来ずに「負け犬」呼ばわりする貧困な精神の持ち主こそ、真に人生の「負け犬」の言葉が相応しいだろう。それはとにかく、若く結婚して得るものと失うものがあり、年取って結婚して得るものと失うものがある。若さと体力は失っても、10代や20代の頃には得られなかった人生経験があるから、それを活かせばいい。もちろん信念があって独身を通すのなら、そういう道もある。いずれにしても、周囲の声に惑わされず、じっくり自分の人生を決めて欲しい。