少女コミックを安心して少女に読ませられる時代は終わった

――もし小学〜高校生くらいの娘さんがいらっしゃるなら、おたくのお嬢さんが毎月買っている少女漫画雑誌の中身をご覧になったことがありますか――

※注:サイズが大きいのでリンク先の画像は携帯では表示しきれません

 上の図のうち、左の写真は、「少女コミック」(以下「少コミ」)1969年4月号である。文通コーナーから推測するに、小学4年生〜中学生あたりによく読まれていたのではないかと思われる。表紙を見ると、わたなべまさこ先生や水野英子先生など、今でもよく知られている漫画家の名前が見受けられる。この時代で興味深いのが、グループサウンズが大変人気で、歌詞カードが付録に付いていたり、メンバーの紹介コーナーがあったりした。

 これは創刊の翌年のものだけあって、さすがに古過ぎるかもしれないが、少コミの当初の路線は、まあ上の写真で一目瞭然である。私が初めて少コミを読んだのは学生時代、1992年か93年頃で、教室に誰か持ってきてたのを読んだ記憶がある。もちろん二十年以上経過して路線はだいぶ変わっていたが、それでも少女漫画を載せていたことに変わりはなかった。

 ところが、およそ十年ぶりに少コミを見て、非常にショックを受けた(上の図のうち、右側が最近のものである)。仮に私が女の子の親で、こんな雑誌を持ってるのを見付けたら、きっと取り上げるだろう。何がいけないかって、ほとんどの掲載作品が、すけべな漫画なのだ。しかも、たまにそういうシーンがあるならまだしも、エッチな内容をメインテーマにした作品がほとんどを占めており、表紙にもそのことが堂々と宣伝されていた。それも、彼氏の奴隷になるだの、双子の兄と妹の近親相姦だのと、まあ、あきれて物も言えない。話によると、婦女暴行を美化し、襲った相手をコロッと簡単に好きになるというような作品もあったという。それを読んで影響された小中学生が「私もあんな風に襲われてみたい」と憧れるとか何とか、もう身の毛もよだつ話ではないか。まさか主な対象年齢が変わったかと思いきや、読者コーナーを見ると名前の後には(15)とか(13)とか、中には(11)とか……。

 「まさか、小中学生も読む少女雑誌で、そんなのは嘘だろう」と思うだろう。しかしこれは現実である。証拠として漫画そのものを載せようにも、あまりも露骨なので、一般向けサイトである「はなごよみ」には載せるわけにはいかない*1。そこまでせずとも、作品紹介文ですら子供にはあまり読ませたくないくらいなのだから。こんな具合である。

「まなみと天はラブラブ同棲中(ハート)でも2人にはヒミツがあって…。」
「彩菜があこがれの日向先輩と生徒会室で2人きり…。この部屋でヒミツの出来事が今始まる…。」
「大好きな彼が男子寮に入っちゃった!追いかけてあたしも男子寮に潜入します!」
「極度のアガリ症の典子。ムリヤリ買わされた下着がなんとアガリ症を克服できる勝負下着で!?」
「(略)ところが待望の初デートは、陽に尾行され散々なコトに。しかし正体不明の男の子にラブホ行きを邪魔されて!?」
「僕妹あらすじ…………
(このあらすじは、僕妹ドラマCD出演者オーディション用原稿です。以下の文章を音読し、MD又はテープに録音して送って下さい。オーディションについての詳しい要項は290Pにあります)
 あたし、結城郁16歳。誰にもヒミツなんだけど、実は、双子のお兄ちゃん・頼と、遠距離恋愛をしているの。え?なんで双子なのに離ればなれなのかって?それはね、頼が「側にいすぎると、すぐに母さんたちにバレるから、この恋を守るために、俺は家を出る」って言って、あたしが逆立ちしても行けないような、超進学校で全寮制の高校に入っちゃったの!全然会えなくて、さみしくて、あたし、頼の親友の矢野くんと親が住む男子寮に忍び込こんだんだけど、そのせいで頼が退学に!その上、お母さん達に、あたしたちが近親相姦しているってことを、バラされちゃって!? どーしよう(>_<)!!」
「¥売れないアイドル・キララの前に白馬に乗った王子様が!?なんと超イケメン★セレブ男子の銀に気に入られ、キララは一夜にしてトップアイドルに!/¥でもそれはキララの心をお金で買うためのゲーム。処女キラーの銀にとってはただの暇つぶしのハズだった…。ところがなかなか自分とHしないキララに恋をし始める…。(略)」
「野ばらは、幼なじみの天才クン・明水に、絶対服従の関係なのです。子供の頃から毎日毎日、彼のパシリ生活をさせられてるんだけど…そんなある日、とんでもないコトが起こって彼のペットになっちゃった!?」
「そろそろカレシの志呉と初H(ハート)…かも。その時はキレイなあたしを見てほしいの…それなのに×××のせいで〜!!(泣)」

 正に世も末ではないか。こうなると、おたくな「妹ブーム」など、善悪はともかくとしてまだ可愛い方だ。火付け役となったSister Princessは血のつながってない?妹に恋をするゲームだが、エロゲーではない。テレビドラマじゃない方の「わたおに」も、エッチな裏技や暗喩があったとは言え、まだあれほど露骨ではないだろう。私が言いたいのはこういうことである。もし「妹ブーム」をこの程度でも、大人にさえ、不純なものとして叩くなら、もはや小中学生向けエロ漫画雑誌と化した一部の少女漫画雑誌は、なおさら不純極まりないものとして叩かれるべきであろう。

 私が観察して意外なことには、少女漫画に純潔を求めるのは、大抵は男性読者である。“男はとかく少女幻想やら処女信仰やらという物を持っていて、こういうことには女性以上に潔癖好きが多く、女性に純潔というものを求めるものなのだ”などと説明する人もいるが、ふざけるな、当たり前だろう。結婚して子供を育てる責任を果たせない年齢のガキンチョに純潔を求めるのは当たり前だし、我々も法律や条令でそれを守ってあげる義務を課せられている。子供同士なら良いと言う人もいるが、無責任過ぎる。責任を取れる年齢の大人が彼女たちの純潔を汚すのが道徳的に悪いことであるなら、責任を取れない年齢の少年がそうするのはなおさら無責任で悪いことではないか。
 とは言え、私も極端なガチガチの純潔原理主義者ではない。100%どんな場合でも性を作品の題材にしてはいけないとまで言うつもりはないし、他人の行動を強制する権利まではない。善し悪しは別として、少女漫画中のエッチなシーンは今に始まったことではないことはよく知っているし、花の24年組の一人、竹宮恵子が三十年近く前にどんな作品を描いたのかも知っている*2。しかし、これだけは言わせてもらう。成人雑誌ならともかく、仮にも「少女」の名前を冠した、小中学生を主な対象とした雑誌で、やっていい表現の限度というものがあるだろう。昔は少コミも良い作品が多かったのに、この堕落ぶりはとても残念である。

 もしかしたら、この悲しむべき実態は、少女漫画というカテゴリそのものの破綻の序曲なのではないか。もはや、少女漫画が少女に夢を与えるような時代は終わったのではないか。最近、私にはそんな気がしてならない。

*1:この記事の初出ははてなダイアリーではなく「はなごよみ」。

*2:寄宿学校を舞台に少年の同性愛を扱った「風と木の詩」のこと。週刊少女コミック1976年2月より連載。当時としてはかなり異質な作品であり、風当たりも強かったとか。