DVDレコーダのすゝめ

 ここのところ、PSXの価格が急激に下がった。「DVDレコーダなのかゲーム機なのかはっきりせぇ」とか「昔のラジオ付きカメラ〈ラジカメ〉みたいに、コンセプトの違う二つを無理矢理くっつけたような機械」などと、まあ言いたい事言われそうな感じの妙な機械である。しかし、五万円台でHDD+DVDレコーダの入門機を手に入れられるなんて、本当に安くなったものだ。確かに編集機能は貧弱だ(面倒だがPCに持っていって編集すれば問題なし)。デジタル放送のコピーワンス番組をDVDにムーブすることもできない(デジタル放送利用者には深刻な問題だ)。それでも、VHSビデオデッキから乗り換える価値は十分ある。

 まず、ビデオテープの空きを気にする必要が無くなったのが最大のメリットである。ハードディスクに数十時間も溜め録りしておき、実際にDVDに記録するのは後でよい。このドラマはこのテープ、あの映画はこのテープと、録画の始まる前にいちいちテープを入れ替えたり、録画開始位置を頭出しする必要もない。また、長時間録画できるから、一週間や二週間家を空けていても大丈夫だ。

 そしてその録画予約も、もはや新聞のテレビ欄から時刻どころか、Gコードさえ入力する必要がなくなった。約20年前に鳴物入りで登場したが聾者向けの字幕放送以外には一般に大して普及しなかった、あの「文字放送」(*もちろん今でもサービス継続中で、JR山手線車内のディスプレイに表示されてるあれがそうです)と同じ原理のシステム、つまり放送電波の隙間を利用したデータ放送は、今ではDVDレコーダで大活躍している。送られてきた番組表はテレビ画面に表示されるので、もし録画したい番組があるなら、そこから選んでボタンを押すだけ。まさにハイカラな録画予約である。しかも、まるでMSXみたいなギザギザ画面の文字放送と違って、文字フォントは小さいけどアンチエイリアスが付いているし、(広告の)画像も天然色と、とても綺麗になったのが、文字放送を知る世代には何ともうれしい。ついでに言うなら、PSXでテレビ番組を見ている時は、チャンネルを変えると番組名がちゃんと表示される。細かいことだが、これがなかなか便利である。

 さて、DVDへの記録であるが、その前に不要な部分のカットができるのも大変便利である。ビデオテープからビデオテープにコピーするのと違い、録画中ずっとビデオデッキに張り付いて不要なシーンが始まるや否や一時停止ボタンを押すというあの手間は過去のものとなった。慣れれば数分から十数分で編集作業自体は終わるから、あとはお茶でも飲みながら編集結果がDVDに記録されるのをゆっくり待てばよい。そして、その待ち時間も15分やら20分やらである。かつての苦労を考えれば、あっという間である。

 上に挙げた事柄に加え、ビデオテープより圧倒的に省スペースであること、繰り返し再生しても画質劣化しないこと、頭出しが瞬時に行える上に、早送り・巻き戻し・一時停止を繰り返してもテープを痛める心配がないこと、などはもちろんのこと、PCで再生できるのも大きなメリットと言えよう。録画した番組を他の人に見せる時、普段使っているノートPCはポータブルDVDプレイヤーに早変わりする。凝った編集をするにも、従来ビデオキャプチャボードで動画をPCに取り込んでいた手間も不要になった。DVDレコーダで記録したDVDをただPCに読み込ませればよい。

 最後に、私がPSXを使用して感じたことであるが、UI(ユーザ・インターフェース)が、「十字キーに○×ボタン」で操作するという、まさにゲーム機そのものである。ファミコンRPGとか、Playstationのゲームを使った事のある人なら、何十分か使っていれば、すぐコツが飲み込めるだろう。

 私が日常よく口にすることであるが、「テレビゲームは、コンピュータの操作メニューという仕組に慣れるための最適な教材である」。テレビのリモコンは上手に使いこなせても銀行のATMではまごついているおばあちゃんがたまにいるが、恐らく孫とテレビゲームをやったという経験が(いつも「おばあちゃん、もう年で覚えが悪いからこんな難しいの無理だわ」と言って逃げてるので)一度もないに違いない。機械の操作に苦手意識を感じている人は、案外、階層メニューという考えに慣れていないことが多いもので、階層をたどっている途中で迷子になってしまい、結局「こんな難しい機械、下手に触ったら壊れてしまうから止めてしまおう」と諦めてしまうのが落ちである。

 銀行のATMや携帯電話をはじめ、様々なコンピュータ機器に使われている階層メニューを使いこなすには、頭の中に、そのメニューの「地図」を思い描かなければならない。そして、「現在自分はその地図のどの位置にいるのか」を常に認識していないと、適切な項目を探し出すことができない。この概念を楽しく手っ取り早く覚える王道こそが、テレビゲームである。PSXのゲーム部分が恐らく一年に数回くらいしか活用されないだろう私が言うのもおかしいかもしれないが、まあ、そんなものでもいい。普段テレビゲームを敬遠している人も、たまには見直してみてはいかが。