好きな曲を本物のオルゴールで演奏できる

 「オルゴール」と聞いて多くの人が頭に思い浮かべるのが、おもちゃや宝石箱やオルゴール人形などに組み込まれることも多い、小さなシリンダーオルゴールだろう。綺麗な音色なのだが、曲の交換が利かないのが残念なところである。たとえば自分の好きな曲とか自作曲をオルゴールにしたいと思ったら、何万円もかけて特注で作ってもらわなくてはいけない。

 しかし、そんな「好きな曲に交換可能なオルゴール」という夢を、比較的安価に叶えてくれるオルゴールがある。「カード式オルゴール」(「オルガニート」とか「オルガニータ」とも呼ばれる)である。

 簡単に言うなら、手回しのストリートオルガン(自動演奏オルガン)のオルゴール版といったところである。穴を開けて曲のデータを記録した短冊形の細長い紙をオルゴールに差し込み、ハンドルを回すと再生されるといったものである。べらぼうに高いわけでもなく、安いものでは一万円でお釣りがくるくらいで入手できる。

(後で知ったのだが、同じように好きな曲に交換可能なオルゴールのおもちゃとして、穴の空いたディスクにピンを差して曲のデータを記録再生するタイプの女の子の玩具も出ているらしい。このおもちゃのディスク式オルゴールは、シート式オルゴールより作曲の自由度は制限されるが、何と言っても安価である。ただし私は実物を見た事がなく、詳しい事は知らないので悪しからず。詳しくは「オルゴールディスク おもちゃ」でググってくださいナ。)

 この曲カードの作り方であるが、ブランクカードには線が引いてあり、水平線の一本一本が一音、垂直線の一マス分が四分音符の長さとなっている。それぞれの音の高さと長さに合わせて印を付け、附属のパンチで穴をあけていけば作る事ができる。ただし、この方法は実際に穴を開けてからでないと鳴らしてみることができないため、試行錯誤の連続で大変である。間違って開けた穴をセロハンテープで埋めながらもう一度穴を開け直したり、失敗部分を切り貼りしたり、そしてやっと試作が完成したなら、あらためて新しいカードで綺麗な本番を作り直すことになる。

 しかし幸いな事に、PCとプリンタがあるなら、その試行錯誤の苦労がかなり軽減される。オルゴール用カードの作成ソフトがあるのだ。画面上に表示されたカードの上で穴の位置を指定し、PC上で試し弾きさせてみることができる。おかしい部分は画面上で何度でも直す事ができる。完成したらプリンタで印刷した後、線に沿って切り取ったりセロハンテープでカードをつなぎ合わせ、印刷された目印通りに穴を開けていけば、PCで作ってみた通りの曲の鳴るカードが綺麗に完成する。印刷に使う紙はPPC用紙みたいに薄い紙では破けてしまう。ある程度の厚さがある丈夫な紙なら何でもいいが、現時点での私の一番のおすすめは「漫画原稿用紙」である。丈夫で、インクも適度に吸うし、穴を空けた時のケバ立ちが少ない。

 このように、自分の好きな曲を(音楽知識さえあれば)比較的簡単にオルゴール化できてしまうというのは、非常に魅力的だろう。ただし、ハードウェアの制限もあることは、あらかじめ念頭に置いていただきたい。たとえばこのオルゴールは全音階(ダイアトニック)で設計されており、つまり半音は出ない。大抵はハ長調またはイ短調に移調しなければいけないし、臨時記号で半音上げ下げのある曲は、ごまかしやすい曲も中にはあるが、ごまかしにくくてアラが出る曲も多い。四分音符の長さくらい空けないと、同じ音の繰り返しはできないので、大抵は音符を間引いてごまかすのだが、そう簡単にいかない曲もある。オルゴールでグリッサンド(低音から高音あるいは高音から低音へ、一気に連続させて弾く奏法。ハープ、エレキギター、ハワイアンギター等で用いる例が特におなじみだろう)を弾かせてみると綺麗に聞こえるけれども、穴と穴の間の隙間がほとんどなくなってしまい、もろくなるので、あまりおすすめできない。やるなら全音ではなく和音でやるのがオルゴールらしい。

 さて私はどんなカードを作ってみたかというと、ご想像つくかもしれないが、懐メロである。現在「蘇州夜曲」のカードの作成途上であるが、まだ完成していないし、どうせなら同じ懐メロでも著作権の切れている曲があるので公開してみる。題名は「コロッケの唄」。さすがにこのオルゴールは市販されてないだろう。こんな曲をカード化することこそ、カード式オルゴールの醍醐味である。なお、このアレンジは上に挙げた「半音ごまかし」(ごまかせてない、音がずれているとも言う)、「連続音ごまかし」(単に間引いただけ)も使っている。当初は途中の台詞部分に全音でのグリッサンドを入れていたが、カードが切れそうだったので和音で妥協することにした。私はハ長調ならC,F,G,G7というごく初歩的なコードだけで伴奏を片付けようといった具合の、バイエルの途中程度の音楽知識しかないし、まだまだ稚拙な編曲かもしれない。もっと音楽の専門知識があるなら、もっと魅力あるアレンジにできるかもしれない。

サンプル

(いずれもPC専用、携帯には非対応)

コロッケの唄

 大正時代の浅草オペラのナンバーとして有名な歌。といっても、わかる人少なそう。

自作曲

 もう一つ。これは二十年くらい心の中に引っ掛かり続けてきた曲である。というのも、私が4歳の時(1979年)にこのメロディが突然にひらめき、「作曲」したという作品なのだが、当時より音楽知識の付いた今になって改めて聴いてみると、弱起で始まること、一応の起承転結が付いていること、ヘ長調からハ長調への転調まであることなど、せいぜいバイエルのごく最初のドレミファソの指の動きとかしか母から習ってなかった4歳にしてはあまりにも出来が良すぎるので、「もしかしたら、ピンポンパンとかポンキッキなどの子供番組で無意識のうちに聴いていた、この曲の元ネタがあって、そのメロディを知らないうちに拝借していただけなのではないか」という疑問がずっと頭から離れないのである。*1
 なお、当時作ったのは飽くまでもメロディだけであり、伴奏は25年の時を経た今になって初めて付けてみたものなので悪しからず。


 あれから私は何度か作曲を試みたことがあるが、4歳の時にひらめきを得たこの曲を超える曲は、今なお創り出す事ができない。作曲ばかりは4歳の頃の自分を超える事が出来ないなんて、全く謎めいた話であるが。しかし一つ言えることとして、たとえ「習い事」「お稽古事」とまでいかなくとも、幼児にはできる範囲で良い教育環境を周りに置いてやることがいかに大切かということである。私が「幼児教育は大切だ」と日頃言うのは、自分の実体験あってこその話である。あとはその環境と子供との相性がよければ、言い換えるなら「まるで遊びのように楽しいことなら」、まるで乾いたスポンジのようにどんどん吸収していくものである。私はピアノの先生からは習わなかったまでも、幼児番組や童謡のレコードから音楽に触れる機会、幼児向けの大きい二段の五線紙帳(裏表紙にまめちしき付き)、そしてエレクトーンをはじめいろいろな楽器があった。確かに、私が本当に作曲したのか、それとも他のメロディを無意識のうちに拝借しただけだったのかも、今もって謎であるが、少なくとも、「作曲ごっこ」をしてみようという動機は、それらの「楽しめる環境」なくしては実現し得なかっただろうと確かに思う。

北朝鮮歌謡「口笛」

 曲カードの作り方も載せたので参考まで。

*1:2004/07/21, 08/06追加:上のメロディに少し似た旋律を持つ曲が3曲見つかった。ドイツ民謡の「山の音楽家」(ドイツ語の原題不詳)、イギリスの童謡のLondon Bridge is Falling Down、そして当時小学1年の音楽の教科書にあった「とんくるりん ぱんくるりん」である。私はこれまで、最初から最後までデッドコピーした元の曲が何かあるのではないかと、その方向で日本の古今の童謡を中心に調べてきたけれど、結局そんなものは見つからなかった。どうやらデッドコピーよりも、有名な童謡の切り貼り&つなぎ合わせの可能性が少し高くなったのだが、もしそれが真実だとして、誰にも教わらずによくメロディのつなぎ合わせ方を見付けたものだと我ながら不思議である。未だに、全くもって謎だらけの曲なのである。