水色の甲虫(かぶとむし)

[VW Type-1]
 こんな車に乗っていると、珍しがられたり、うらやましがられたりする。

 「確かに、外面は可愛い顔してるかもしれないけど、はっきり言って昔の車だよ。マークIIやクラウンなんかと違ってエンジンはうるさいし、寒い時なんかエンジンが暖まらないうちはよくストールするし、パワステがついてなくて重ステだし、ブレーキブースターもないからブレーキが重いし、強風どころか道路の凹凸くらいでハンドルを取られるし、シートも年季が入ってフニャフニャだし、シートベルトは二点式だからシートベルト付けてる気がしないし、デフォッガがないからクリンビューがないとすぐ曇るし、エアコンがないから三角窓を開けて風を取り入れる冷房しかないし、カバみたいな顔に似てガソリンをガバガバ大喰らいするし、いつ故障するか気が気でないのに、それでもこの車がいいって言うの?」私はこう意地悪気に聞いてみる。

 しかし、それでもフォルクスワーゲンはうらやましい車なのだそうだ。これがスバル360であっても同じ反応なのかどうかは少々怪しい。おまえは古い車でも外車なら許せるのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい


 まあそんな話は置いといて、突然この車のオーナーになることなって私自身ビックリしている。何しろ、子供の頃、本当によく町中で見かけたありふれた車なのに、今となっては多くが姿を消してしまった、本当に懐かしい車なのだ。また、ドライバーになって初めて知った発見も結構多かった。

 まず、これは知っている人が多いと思うが(私も知っていた)、前のボンネットを開けてもエンジンは入ってない(後ろにある)。次に、この車にはラジエータがないのだ。つまり空冷式。ミッションはMTとセミATの二つのモデルがあるらしいが、これは後者のタイプ。

 そしてこのセミATがMT以上に奥が深いのだ。MT四速でいう1速〜4速の位置が、それぞれ後退(R)・低速(L)・1速・2速になっている(目安として50kmまでが1速、それ以上は2速。使用頻度が低いが、坂道等で低速を使う)。シフトレバーを握るとクラッチが自動的に切れ、シフトチェンジしてシフトレバーを離すと、少し間をおいてクラッチがつながる。これだけ聞くと簡単なように思える。実際、ATしか知らない人でも一応動かすだけは動かせる。しかし、このクラッチのつながりが、あまりにも急で衝撃を感じるから、上手な運転を目指すならアクセルワークでカバーしなければならない。クラッチがつながるちょうどそのタイミングで、アクセルを少しふかし気味にすると、衝撃があまりなくジャストミートする。それもタイミングが早過ぎると空ぶかしになってかえって加速が落ちるし、タイミングをつかむまでが難しいのだ。

 どちらかというと、この車には高速よりも一般道路の方が似合うとは言え、高速走行も大丈夫である。何しろドイツのアウトバーンを走ることを念頭に置いて設計された車なのだから当然だ。ベタ踏みせずに時速百キロは十分出せるので心配はいらない。


 このような古い車を維持する上での問題の一つが、補修用部品の入手である。当然ながら、イエローハットオートバックスに行っても、こんな車の部品など置いてない。幸い、家の近くにフォルクスワーゲン専門店があるので部品入手も整備も問題ないが、電球やヒューズ、点火プラグやポイントなど、あらかじめ予備を自分でも常時持っている必要があるだろう。もう一つ困ったことがあった。合鍵を作ろうとしたら、フォルクスワーゲンのブランクキーは無いとあちこちで断られたのだ。四半世紀以上も昔の車だから仕方ないが、あちこち探し回ってやっと、取り寄せで入手する事ができた。このように、いろいろな問題はあるにはあるが、これを乗り越えてでもこの車に乗りたい、そんな魅力がフォルクスワーゲンにはあるのである。